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旅する木(上)



 先日の一件から一葉と妖精のツバキとの関係は、今までと違う物になったものの、今までと変わらない日常を送っていた。



 いつもの様に一葉はお茶とお菓子をバルコニーのテーブルに用意する。いつもと 違うのはツバキの分のお茶も準備されている事だ。


「ツバキ、お茶の準備が出来たよ」

「今行く~」

「ねぇ一葉、お茶飲んだら絵本読んでっ今日はねっ“旅する木”がいい」

「わかった、わかったからお茶の時間にしような」

ツバキを宥めて一緒にお茶の時間を楽しむ。

「あっ私の分もカップがあるっ」

「そうなんだ、いつまでも大きさの合わないカップ使うのもあれだし、飾り用だけど丁度いいのがあったからツバキにと思って」

「ありがとうっ一葉。頂きます」

「どういたしまして」


 お茶を飲み終え一葉はいつものように、ツバキに頼まれ、絵本を読む事になった。


「じゃあ、読むぞツバキ」

「うんっ」



~~~“旅する木”~~~

一人の若い旅人が旅に疲れ一本の太い大きな木に寄りかかり休んでいると、

「旅の方、旅の方」

 と大きな木が喋り掛けてきました。

「旅人さん、あなたの話しが聞きたいのです。どんな場所を旅して来たのですか?そして旅人さんはこれからどこえ向かうのですか?」

 旅人は自分が今まで旅して来たいろいろな場所について木に喋って聞かせましたが、これから向かう先について話す事が出来なかったのです。

そこで、この大きな木に聞いて見ました。

「私はこれからどこへ行けばいいでしょう?」

「旅人さんは今、疲れているのですね、旅することに……」

「旅人さん、私も昔旅をしていたのですが、今はこの場所に根を下ろしています。旅人さんもどこか安らぎのこと地を探してみてはいかがですか?それに少し羽を休めればまた、旅へ行きたくなるかもしれませんよ?」

「もし、それでもダメなら、一つ私の願い叶えてはくれませんか?」

「あなたの願いとは何ですか?」

「私は、一つだけ観たい景色があるのです。空も海と見紛う水平線を観たい……昔、銀色に煌めく氷の谷間も、火山の燻る岩山も、砂丘も染まる夕暮れを見たのです。ですが、あの水平線を見た事が無い……」

「ですから、旅人さん私の代わりに見に行ってくれませんか?そして気が向いたら私にその話を聞かせて下さい」

 旅人は木の願いを聞いて旅に出ます。

残された木は旅人の旅を想像しては旅をするのです。

この木は旅を夢見ながらいつだって旅をする。

~~~旅する木 終わり ~~



「ねぇ一葉、この木は本当に旅をしていたの?」

「ん~、答えはYESでNOだよ。この木は実際に旅はしていないけれど、心で旅をするんだ、今までに沢山の旅人から話を聞いて想像で旅をするんだ」

 その場所から動くことの出来ない木は、遠いどこかに憧れて、旅人に色々な話を聞いて、旅人が旅した景色を見ているのだ。だから、木は旅をしていたし、していなかった。


「そっかぁ、心で旅をするんだ、素敵だね。でも木が本当の本当に旅をしてみたいって思わないのかな?」

「それは、思ったんじゃないかな?でも、木は旅人じゃないから旅する勇気よりも、旅する夢を見ていたかったんだ」

「ふ~ん、ちょっと難しい………」

「良いんだよ、そんなに考えなくても、楽しく読んでふとしたときに思い出してくれればそれが一番なんだ」

「ふとしたとき?」

「ああ、立ち止まって終ったときとか」

「色んな想像をしているときに、そういえばこんな話があったな、とか、そんなふうに思い出してくれたらいいな」

「そっかぁ、それなら私も出来るっフフフッ」


 ツバキは一葉が言っている事がやっと解ってくれたようで、楽しそうに顔を綻ばす。

「そうだね、ツバキもいつか思い出してくれるかい?」

「うんっ」


「あっそうだ、今日はこれから用事があって出かけるからツバキも適当な時間に帰るんだよ?」

「何処に行くの?一葉」

「ちょっと、仕事の件でこの前来た、芳野さんと話し合いがあるんだ」

「ム~、つまんない……」

 ツバキは眼に見えてむすくれてしまった。それを見て一葉は少し笑ってしまう。

「じゃあ、行ってくるから、人に見つからないようにな」

 そう言って一葉はツバキを残し町へ向かった。



「…………気をつけてって、此処にはもう一葉しか来ないのに見つかる訳ないのに、そんなに信用ないの?フンッだ、一葉のバカッ」

 残されたツバキは独り一葉に対する不満が口からでていき悶々としてしまう。


「……ん~、…そうだっ一葉が帰って来たら驚かしてやろう‼」


 意気揚々とツバキは一葉が来たときに何処で待ち構え驚かすか楽しげに思案するのですが、そう上手くいくでしょうか?ツバキの中では隠れていたツバキが一葉の事を驚かす算段ではあるものの、このドジな妖精に果たして上手く出来るかどうか…………



 編集者である芳野慶子との”秘密の客人”続編の出版についての話し合いを行う予定で、今回は場所を代えて町にある喫茶店で話す事になった。

一葉が着いたときには既に芳野は入口から見える席に座って珈琲を飲んでいるところだった。


「あっ、神木先生っ、こっちですっ、こっち」

 店内に入った一葉に気づいた芳野が手招きをして、控えめに声を掛けてくれた。

「もう来ていたんですか、すみません待たせて仕舞って」

「いえいえ、私が早く来て仕舞っただけですし」

 挨拶はそこそこに、一葉も珈琲を注文する。


「今回来て頂いたのは、今度出版される事になった“秘密の客人”の続編販売日に先生には朗読会をして頂きたいのです。」

「えっと、良いんですか?俺なんか行ったところで子供達は喜ばないでしょ」

「そんなこと、ないと思いますよ。先生お若いし、顔だって悪くないじゃありませんか、バッチリ親御さんのハートを掴めますよっ」


 そういう、ものだろうか?確かに一葉の見た目はそれほど悪くはない、中肉中背、肌は色よく焼けているせいか髪の色も、ほんの少し栗毛色がかっている。あと特徴があるとすれば結構なタレ目であるということだ。

そのせいか、周りの人間からは、いつも退屈してるみたいとか、機嫌悪そうなどと言われる事が多いが、そのせいで子供達を恐がらせてしまわないかが心配だ。他に適任者がいるのではないか。

「俺なんかで良いんですか?他に誰か頼めないんですか?」

「イヤイや、ここは宣伝の為にも是非先生にお願いしたいんですよっ、読者の方達にも、この人が書いてるってアピールになりますっもしかしたら、親御さんから支持を得られるかもしれませんし、しないよりやった方がいいんです!」

「あ、あぁ、そういうものですか……」

 一葉は芳野と話すときに時折、この自分とはズレた熱を感じ、何とも言えずいつも一歩退きそうな自分がいる。

決して、芳野が嫌いな訳ではない、頼りになる近所のおばさんみたいで心強いのだが、たまに勢いがズレている気がするのだ。

「じゃあ、先生、朗読会はして頂けるという事で、日程は決まり次第連絡しますので」

 一葉が呆れている間に、あっというまに話がまとまってしまった。

「え?……はい。解りました」

 一葉も決して朗読するのが嫌ではない。子供の頃から妖精のツバキと祖母の前で絵本を音読していたし、はっきり言って好きな方だ。

ただ、どうしても少し不安はある。沢山の子供の前で自分が上手く出来るかどうか自分話を聞いて貰えるか。

それらは一葉が如何に子供の心を掴む事が出来るかで決まる物だ、一葉は人も好きではあるものの、人間関係の機微に疎く、子供達に好かれる自信がない。

(大丈夫かな?俺………)


 些細な不安を胸に一葉は家路に着く。

自分の家に帰った一葉は身に覚えの無い塊がリビングの真ん中にド~ンと陣取っていた。


(………アイツ………何がしたいんだ………)


 辺りを見渡すと部屋の中が強盗にでも入られた様に、其処に有った何かしらがなくなっている。正体は明明白白なのだが、問題は何のためにこんな事をするにいたったかだ。


「……ハァ、ツバキ、其処に居るんだろ?出てきなさい」

 一葉はツバキが居るであろう塊の方に声を掛ける。

「………出れない」

 一葉はツバキの悪戯だと思っていたのだが、帰って来たツバキの声は泣き出しそうな声であったため、また何かドジを踏んだに違いないことが解る。


「……もしかして、自分で作っておいて出られなく為ったのか?」

「だってだって、入ったときは何ともなかったんだものっ、そしたら行き成り崩れて出られなくなっちゃたんだもんっ」

「………」

(ヤッパリか……)

 当たっても全く嬉しく無い事が当たって、一葉は呆れて項垂れる。


「うぅ、一葉~、此処から出して~、ちゃんと後片付けするから~」

「ハイハイ、今出すから、ちょっと待って」

 ツバキの半ば泣きの入った声で慌てて一葉は山と重なった物の塊を少しづつ退かしていく。

(全く、いつからこうしてたんだか…)

 ツバキが作った山は直ぐに取り払い、中からツバキが出てくるとツバキはグッタリしていたかと思い気や直ぐに立ち直った。

「ふわぁ、やっと出られた……。フハァ~、ヤッパリ外が一番っ」

「で?何でこんな事してたんだ?」

「好きで出られなくなったんじゃないもんっ、一葉をびっくりさせようと思って隠れる場所作っただけだもの……」


「いや、もう隠れられてないからそれ」


 一葉はさっきまで山となっていた状態を思い返しても、あの異様さで隠れている気になれるツバキの感覚に軽く感嘆を覚える。


(ホント、頭隠して尻隠さずを地で行ってるんだよな)

「ハイ、では片付けに取り掛かるよ、ちゃんと元の位置に戻すんだぞ、終わったらお茶とお菓子準備するからそのつもりでしっかりやること」


「うんっ、わかったぁ」


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