妖精の失敗と突然の来訪者
あれから何年も年月が経っているのに、諦めていた想いが今更ながらに揺れ動いている、それもこれも全てはこの絵本に挟まっていた手紙を見つけた事が原因であった。
一葉は、その手紙をてにとり暫く眺めていたがそのうち手のひらで玩び、やがてそれにも飽きてテーブルに突っ伏し盛大なため息を吐いた。
「……はぁ〜ぁ…ホントもう……」
そう呟きながら、視線を上げると視界に入ってくるのは一葉を心配そうに見つめる妖精がいた。
そして、もう一度一葉は盛大にため息を吐く。
「…っはぁ〜…っでこんな……」
(本当に見えてないと思ってるのか?このお惚け妖精…こっちの気も知らないで)
思案しているうちに、家の方でインターホンの鳴る音がした。
ピンポーン―――
「ハーイッ、少し待ってて下さいね!!」
言いながら一葉は立ち上がり、手紙を本に挟み直してから家の中に入っていく。
「あ、一応ここは閉めておくか」
テラスの扉を閉めてから玄関の方に向かって行った。
「ハーイ、どちらさまですか?」
一人になった妖精は暫く家の中の様子を見てみることにしました。
そこには一葉ともう一人の人が何やら話しているようです。何を話しているのか聞こえないものの、なんだか楽しそうです。
それを見ていると寂しくなり、妖精は家の中を覗くのは止めて先程までいたバルコニーのテーブルの上に座り一葉が置いて行った紅茶とクッキーに眼をやるも、どうも気持ちが持ち上がらず絵本の方に近づき手を伸ばす。
いつも、絵本を読むのは一葉で、妖精は一度も本に触れたことがなくこの機会に絵本を開いて気を紛らわしてみる事に、
開いた絵本、そこには先程一葉が挟んだ手紙があり、妖精は絵本も見たかったけれど手紙の方が気になって仕方ありません。
一体中身は何が入っているのでしょうか、妖精の想像ではこの中に絵本の続きが入っているに違いないはずです。
でも、この手紙を見ている時の一葉はいつも困っているような顔をしているのです。
もしかすると、この絵本の続きとは違うかも知れません、もしもそうなら一葉の悩みの種は一体何なのか気になって仕方ない
結局はどっちにしても妖精は手紙の中身が見たいだけなのである。
妖精が手紙の中身を広げていると、思っていたよりも強い風が吹いてきた。
風に押され手紙がなびき、手紙を押さえるのがやっとで広げるどころではない有り様、そうこうしている間に先程までより強い風が妖精と手紙を襲って行った。
吹き荒ぶ風に思わず目を瞑っていた妖精は、そっと、目を開けてみると
その手に握っていた筈の手紙が無く…
余りの事に暫くの間、自分の手のひらを見つめる事しか出来なかった妖精でしたが、事態は急を要します。
一葉が戻って繰る前に手紙を探さなければ……
妖精は絵本を閉じて、急いで辺りを見渡し手紙を探してみますが見当たりません、まだ遠くまでは飛んで行ってはいない筈です。
早速妖精は手紙を探しにその場を後に飛んで行ってしまいます。
その頃一葉は来客を迎え、妖精の事が見つかってしまわないか気が気ではなかった。
(こんな山の中に人なんて来ないと思ってたんだけどな………大丈夫かな?アイツ〈妖精〉見つからないといいんだけどな)
「で、今日は一体どういったご用件でしょうか?前もって言って頂ければこちらから伺いましたよ」
「そんな今回は折り入ってお願いがありましたので急で申し訳有りませんがこちらから伺わせていただきました。それでですね、お願いというのが神木先生が以前お書きになった作品の続編についてなんです。」
神木というのは一葉の絵本作家としてのペンネームである“神木木ノ葉”から編集者は皆神木と呼ぶ。