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黒く汚れたラブレター・読めない走り書き

ショーンからマリアへ


 拝啓、いや、君にこんな挨拶は不要か。

 この手紙が届かないと知って、また書き綴ってしまう僕のことを君は笑うだろう。それでも書かずにはいられない。こうして君を想い書き溜めた手紙を、いつか笑い話にしたいんだ。


 君が戦場に行ってから、もう何年――十と何年経っただろう。まだ手紙のやり取りができていたころ、僕は君がいなくても平気だと、手紙で強がって見せていたね。

 あのころはまだフローレンスもいて、この戦争もすぐに終わって、君が帰ってくるものだと信じていた。僕は君とフローと研究以外には無関心で、研究が戦争の道具に使われても、見知らぬ誰かが死んでも構わなかった。むしろこの戦争のおかげで、惜しみない資金の援助が得られることを喜んでさえいたよ。


 だけどあの子が、フローがいなくなってから、僕も少し変わったように思う。

 あの子や君の優しさを、僕も理解できるようになった気がする。君がどれほどこの世界を愛していて、人間というものを愛おしんでいるか。あの子がどれほど君に似ているのか。わかるようになったんだ。


 いや、たぶんずっとわかっていた。

 だから君に惹かれたんだと思う。君の強さと優しさは、僕にはないものだったから。


 僕は君に憧れていた。今も昔も、ずっと君を尊敬している。

 そう……僕は少しでも君に近づきたい。君と釣り合う人間になりたい。


 だから……

 僕は人々を救うために、博士を説得しに行くよ。

 僕たちの世界が壊れてしまう前に、愛すべき人類を別の世界に逃がすんだ。

 今の、ほとんど限定的な転移ではなく、もっと選択的で、もっと広域で、もっと大人数の転移を可能にすれば。博士の研究の成果があれば。

 こことは違う世界で、人類はまた生きていくことができるはずだ。


 これで僕は軍に睨まれるかもしれない。二度と研究ができなくなるかもしれない。僕はルドルフほど偉大な研究者ではない。代わりなんていくらでもいるんだ。

 もしかしたら……僕は消されるかもしれない。だけどそれでも構わない。ここで逃げたら、きっと君に顔向けできないから。


 僕の決意が、君に届くといい。

 愛している、マリア。




追伸

 人々を救うなんて大それたことを言ったけれど、僕は、本当はただ……君にもう一度会いたいだけなんじゃないか。そんな風に思うことがある。

 「情けないことを」と言って、こんな僕を笑ってくれ。君の笑顔が見たいんだ。
















Er ist gefährlich.

Er ist nicht verrückt!

Achtung!






彼は危険だ。

彼は狂ってなんかいない!

気をつけろ!

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