名刺・取説・二つの手紙
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NEU次元工科学研究所所長
フルドリヒ大学名誉物理学博士
ルドルフ・リヒテンベルグ
経歴:
新暦289年4月18日 出生
西欧文化圏ウルテンデルク州 出身
フルドリヒ大学 理学部次元物理学科 卒業
同大学にて次元移転論を研究。工学部との共同実験により、世界初の次元間移動を成功させる(320年)。以降NEUの後援を受け、次元工科学研究所を設立(332年)。初代所長就任。
345年、生物の移転実験に成功。次元転移装置として、ディメンショナーの存在が脚光を浴びるようになる。
著書:
次元物理学の展開(サンライズ・サイエンス社)
工学シリーズ・次元工学(共著)(ニュー・ジェネレイト社)
無数の世界・無数の科学(ニュー・ジェネレイト社)
花と数式(草木の友出版)
趣味:
ガーデニング・植物観賞
(自然に勝る美しいものはない。たとえどれほど完璧な数式であっても!)
ホームページ:
http://×××××
連絡先:
E-mail ×××××@×××
Tel ×××-×××-×××
Ludolf=Lichtenberg
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【無線機(トランシーバー)の簡易取扱説明書】
※こちらは説明書の簡易版です。詳しい取扱い方法は、本書記載のページ番号を参照に、製品付属の冊子『取扱説明書』をご覧ください。
本製品は、送受信可能な無線機に次元通信機能を備えた次元間トランシーバーです。(特許出願中)
クリアな音声と高度な電波感知機能に加え、直感的な操作を可能としたデザインを採用。耐熱・耐水性も高く、屋外での携帯にも最適です。
本体説明
・本体電源:
赤いスイッチです。電源をONにすると、黄色いランプが点灯します。バッテリーが減少すると、ランプが赤色に変わります。赤く点滅しているときは、本製品に異常があります。(→p12)異常の詳細については(→p106)。
・周波数調整つまみ:
周波数を調整します。本製品は、通信に際して周波数のみを感知します。同じ周波数の無線機と通信することができます。(→p14)
・周波数マスクスイッチ:
通信したい周波数に合わせたあと、周波数マスクスイッチを押すと、その周波数のみを受信するようになります。この際、周波数調整つまみはロックされます。もう一度押すとロックは解除され、周波数の調整が可能になります。(→p26)
・音量調整つまみ:
音量を調整します。右に回すほどボリュームは大きくなります。(→p30)
・次元通信ON/OFFスイッチ:
次元通信のON/OFFを切り替えます。ONにすると、登録された座標次元間と通信のみを行います。OFFにすると、同じ次元内での通信のみを行います。
※座標の固定と登録について(→p32)
・次元選択つまみ
登録された次元を切り替えます。次元は1~15まで登録可能です。(0は初期固定次元(地球次元)です)(→p92)
【!】警告:
以下の使用方法は本製品を壊す恐れがあります。
意図しない使用法には、エラー警告音が鳴ります。
エラー警告音が鳴った場合は、すぐにその使用方法をおやめください。
・電源スイッチやつまみなどを急激に変化させる操作
・登録外次元への通信
・周波数マスクをONにした状態での周波数つまみの操作
・本製品付属外のバッテリーの使用
・長時間水などに浸す行為
・強い衝撃 など
その他のエラー行為は(→p100)
【?】よくある質問:
・通信ができない
→本体電源は入っていますか? ランプは点灯していますか?
→音量は小さくありませんか?
・次元通信ができない
→次元登録はお済みですか? 次元通信はONになっていますか?
・知らない相手の声が聞こえる
→通信相手との周波数は一致していますか?
→同じ型のトランシーバーを利用している、別の相手と通信している可能性があります。
通信に用いる周波数を変えるなどの対策をしてください。
・ノイズが入る
→近くで電波を発しているものはありませんか?(雷など、他に電磁波を発するものがある場合、一時的にノイズが入ることがあります)
→周波数はきちんと合っていますか? マスク機能は使用していますか?
・本体が破損した
→破損部分にはお手を触れず、すぐに修理センターにご連絡ください。
修理センター:
Tel ○○○-○○○-○○○
その他の良くある質問など(→p126)
故障かな?と思ったら:
故障の可能性について(→p146)をご確認の上、カスタマーセンターまでお電話ください。
カスタマーセンター:
Tel ○○○-○○○-○○○
周波数 ××kHz 次元番号0
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リヒテンベルグ博士へ
拝啓
大暑の候。近頃はそちらの次元に行ったきり、めったに研究所にも顔をお出しになりませんが、いかがお過ごしでしょうか。
こちらはますます戦争が激化し、所員も随分と減りました。研究も停滞し、ディメンショナーの新規開発も遅れております。残された所員だけでは限界があり、新しい成果もないまま時間が過ぎていくばかり。博士がいたころの、活気に満ちた研究所が懐かしいです。
つきましては、博士。どうかこちらに戻って来てはいただけないでしょうか。
博士がそちらの世界に渡ったのは、戦争を嫌ってのことであるとは重々承知しております。ディメンショナーが戦争の道具に使われることを拒み、軍部に奪われる前に研究の成果を隠した博士を、私は人間としてたいへん尊敬もしております。
ですが今は、このディメンショナーこそが、人類を救うための最後の手段でもあります。
もはやこの戦争は、全人類を滅ぼしかねない状態まで進んでしまっております。
罪のない人々をこの非情な世界から逃し、別次元で生きていくためにも。人間のためにも、博士の帰還が必要なのです。
のちほどこちらから、所員を二人ほど送らせていただきます。若くて情熱に満ちた、博士を尊敬する青年達です。
ぜひとも、彼らと会ってやってください。
そして、必ずや戻ってきてくださることを、私は確信しております。
敬具
ショーン・ハワード
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リヒテンベルグ博士へ
拝啓
残暑の候。そちらの季節はもうすっかり秋めいてきていることでしょうが、いかがお過ごしでしょう。
そちらで私の遣わした青年たちには、もう会うことができましたでしょうか。いえ、彼らに託したこの手紙を読んでいるといことは、無用の心配なのでしょう。いつものようにディメンショナーで手紙を転移させても良かったのですが、それよりは直接手渡しをした方が、博士も確かに手紙に目を通してくれるはず。そのような愚考により、このような形で博士のお目に触れることとなりました。
ですが、今回ばかりはどうしても、博士にお伝えしたかったのです。
私たちの切実な思いを、確実に聞いていただきたかったのです。
どうか戻ってきてください、博士。
私たちにはあなたが必要なのです。
博士の愛した美しい世界。そこに生きる人々を救うために、どうかお力をお貸し下さい。
敬具
ショーン・ハワード
追伸
青年たちの説得を聞き入れて下さらなかった場合、私が直接博士の元を訪問させていただきます。
正面から、腹を割って話をしましょう。まだ、私たちが若かった頃のように。
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