二日目
頭がもうろうとする。昨晩、一睡もしていないせいだろう。無事に朝日を見た時は思わず涙があふれ出た。
生きていることに感謝しながら、水を飲む。それから真っ先にしたのは、枯葉を集めることだった。一晩中震えていたせいだろう、暖を取りたい。
幸い、昨日今日と晴れていたおかげだろう。真新しく積もった枯葉は、私にもよく乾いていることが分かった。昨日草を薙いだ場所にまとめて置くと、適当に大きそうな枯葉を一枚抜き取ってライターで火をつける。燃え始めたそれを枯葉の上に投げ、しばらくするとようやく他の葉にも燃え移り始めた。
炎を上げて燃え出す焚火を見つめ、私は安堵した。ただ火が燃えているだけだというのに、不思議とまた涙がこぼれてくる。
人心地ついたとでも言うべきか。そこではじめて、私は空腹に気が付いた。
リュックの中にある食料は、缶詰や真空パックの乾パン、乾燥野菜やフルーツと言った、日持ちのするものばかりだ。糖分としてなのか、飴が一袋入っていたのがありがたい。
まともに食べて、十日くらいは持つだろう。意外と多い気もするし、心もとない気もする。
節約した方がよいだろうかとの考えが頭を掠めるが、すぐに打ち消す。「節約する」と考えることが、「救援は来ない」という思いを深める気がしたのだ。
缶切りとスプーンは、食料に紛れて詰め込まれていた。とりあえずは缶詰の一つを開け、そのまま食べることにする。中身は美味くも不味くもないコンビーフだ。特に感想もない。空腹が満たされていくことだけ感じる。
食事を採りながら、今後のことを考える。取り留めのないことだが、以下にメモを残す。
1.今後の指針
・救援を待ち、この場所にとどまる(救援は来るのか? ここは安全なのか?)
・人家を探し、移動する(救援の手を逃す可能性がある。移動して戻ってこられるか?)
2.現状の問題点
・水・食料はもつのか
・雨が降ったときはどうする?
・危険な生き物や毒性の植物はあるのか
3.早いうちに解決するべきこと
・食料、水の確保、安全の確保 →どうやって?
4.長い目で解決するべきこと
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・
書き連ねるうちに眠っていたらしい。あらためて読み返すとひどいメモだ。続きを補足する気にはなれない。
メモを書いていたときはまだ日が高かった。そこから数時間は寝ていただろう。日が暮れたころに目を覚ました。
違う。正確には飛び起きた。今でも心臓がどきどきしている。もう一度眠る気には到底なれない。
間近で聞こえた獣の唸り声に飛び起こされたのだ。私が体を起こすと同時に、その獣は草を掻き分ける音とともに逃げて行った。
はじめこそは唖然としたものだが、気持ちが冷静になるにつれて恐怖が滲み出す。もしかしたら草食動物かなにかだったのかもしれない。だが、肉食動物であったかもしれない。想像は悪い方にばかり傾く。
どうやら寝ている間に焚火が消えていたらしい。あたりには煤のにおいが漂っている。何気なく懐中電灯で周囲を照らせば、食べ捨てた缶詰に虫が群がっているのが見えた。
あまり虫に詳しくはないが、どうにも蠅に似た種らしい。生命の存在できる環境では、似たような種が繁栄するのだろうか、などと素人考えを巡らせる。
こういうとき理学の学生でもいれば。不意にかつての学友を思い出してしまう。果たして彼らは無事だろうか。もう一度会える機会はあるだろうか。
……いや、他人の心配などしている余裕はない。むしろ私こそ心配される立場にあるのだ。周囲を見渡すたび、私はそのことを身に染みて感じる。暗闇に息がつまりそうだ。
空に月は見えない。木々に隠れているのか、雲に紛れているのか。
時計を見れば十一を示している。昨晩の十時に時計を見たことと、体感時間を鑑みて、地球とそれほど一日の時間がずれているわけではないらしい。
ならば、あと六時間から七時間はこうして暗い中で過ごさなくてはいけないわけだ。
夜が長い。