十六夜咲夜は吸血鬼がお好き。
彼女の名前は十六夜咲夜、紅魔館のメイドをしているようです。
彼女は時を操る程度の能力を持っておられるらしく、その能力を駆使して
メイドとしてのお仕事を完璧にこなしております。
「ザ・ワールド!」
咲夜以外の時間が静止し、音も無い世界で普段通り紅魔館内の掃除に取り
掛かり始めました。
「この屋敷の方々は綺麗に使ってくださるから、お掃除が楽で良いわ」
広いお屋敷のお掃除も面倒ですが、時間を止めているので自分の時間が減
ることも無く、お仕事が終わればレミリアお嬢様のお側で――
「ずっとあの可愛らしいお顔を眺められますわ……♡」
咲夜は脳内にレミリアの顔を思い出し、甘い妄想を膨らませる事でこの屋
敷の掃除をするためのエンジンにしています。
「妄想一つでこのお屋敷掃除三つ分のエネルギーが湧いてきますわ!」
しかも今日は他の住民は博麗神社のお祭りに参加しに行っている。(パチュ
リーは除く)
「ぐへへ……」
レミリアお嬢様と二人っきり……膝枕でもしてあげましょうか、それとも
デザートを「あ~ん」してあげましょうか……
期待に胸が高鳴りすぎて、咲夜は机の上に置いてあったアルバムを足の上
に落としてしまいました。
「にゃぁぁぁ!?」
素っ頓狂な声をあげ、咲夜は左足小指を両手で包みながら片足でぴょんぴょ
ん跳ね回りました。
「痛い痛い痛い痛~い! 誰ですかこんな物を置きっぱなしに……」
水色の綺麗なアルバムに表紙には「レミリア」と書いてありました。
「レミリアお嬢様の……アルバム?」
そういえば私はそんな物を見たことがありませんでした。
――というより、こんな素晴らしい物がこのお屋敷に存在していることさ
え、知りもしませんでした。
――っていうか、アルバムなんて存在を考えたこともありませんでした。
「ここに……レミリアお嬢様の全てが……?」
こうなっては咲夜を止められる物はありません。
今は止まった時の中、屋敷にはレミリアと自分しかいない。
ここでちょこっとサボっても、誰にも気づかれるはずが無い!
「お嬢様の全てが……お嬢様の……!」
忠誠心が鼻からドバっと出てきました。
――ああ、あとでもう一度掃除しなくては……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
咲夜がアルバムの最後のページをめくり終わった頃。
もう床に真っ赤なシミができていました。
「可愛らしく、そして妖艶――まさにカリスマ! 私の心を華麗に撃ち抜く
最高のお嬢様……♡ ああ、感激で鼻から真っ赤な涙が……」
軽く貧血を起こしそうになった咲夜が、アルバムを本棚にしまおうと持ち
上げると――
ヒラリと一枚の写真が舞い降りました。
「あら? 剥がれちゃったのかしら」
咲夜がその写真を拾い上げ――もう一度真っ赤な幸せを吹き出しました。
「これは……!」
写真に写っているのはレミリアがキスの顔をして、こっちを向いている写
真でした。
普段真面目に振舞っているレミリアの、少し幼い頃のちょっとしたいたず
ら心なんでしょうが……
「見たい! 今すぐレミリアお嬢様のキス顔が見たい!」
その一心。その一心が咲夜の秘められた力を爆発させました。
「キング・○リムゾン!」
咲夜の「ここでしか使えない最大の能力」が発動し、掃除をしたという結
果を残して時間をすっ飛ばしました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「レミリアお嬢様~」
レミリアはソファーのような椅子に座り、熱心に何やら難しそうな本を読
んでいた。
――ああ……知的なお嬢様も素敵ですわ。
レミリアは咲夜の視線に気づき、にっこりと微笑み本を閉じた。
「あら咲夜、何か用かしら?」
「実はですね。私は今、心奪われたお方がいるのです」
「ふふっ……咲夜も恋焦がれるお方ができたんですか、それはとても良い事
だと思うわ」
咲夜は深く深呼吸をして、
「それでキスの練習――いえ、見本を見せてもらいたいのですが、あいにく
今は紅魔館には小悪魔含め誰一人としておりません――」
レミリアは理解したようにゆっくりと口元を緩ませた。
「分かったわ咲夜。ちょっと恥ずかしいけど、見せてあげましょうか」
レミリアは少しだけ顔を赤らめ、咲夜に向かってキスの見本を――
「ザ・ワールド」
時を止め、咲夜の目の前には無抵抗無防備なレミリアのキス顔が――
「ぶふぅ!」
鼻からの忠誠心が止まらない。ここが汚れていたら何が起きたのか確実に
バレてしまう!
咲夜は両手で必死に忠誠心を受け止め、なんとか床を汚すことは回避した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それでは早速……」
やっと忠誠心が止まり、咲夜は少しずつレミリアの顔へと近づいた。
「ちゅ? ん~……この顔どうやってするんだろう。レミリアお嬢様の写真
にキスした事は数え切れないくらいあるけど……」
このまま放置していても無駄なので、咲夜は時間を動かしました。
「そして時は動き出す」
「どう? 咲夜、見本になったかしら?」
「やっぱり実際にやってみないと分かりませんね……」
言ったあとで「しまった!」と思ったが、もう遅い。
レミリアは小悪魔笑いをして、私の頬に手をかけた。
「してあげましょうか?」
レミリアの甘い吐息が頬をくすぐり、全身をゾクゾクした感覚が襲う。
顔が熱くなり、頭がボーっとし始め……
「んんっ……!」
レミリアと咲夜の柔らかく甘い唇同士が触れ合い、最高な心地よさが身体
に襲いかかる。
そのままお互いに舌を入れ始め――
「んく……はふ、んんっ……♡ んはぁ……」
ああ、お嬢様お嬢様お嬢様ぁ!
咲夜の精神はもう、このままでは元には戻らなく――
「咲夜! レミィ!」
ドアが開いた。
――あれ? 皆さん博麗神社のお祭りに行ったのでは無かったんですか?
「パチュリー!?」
レミリアは紅潮した顔を咲夜から離し――二人の唇同士を甘い糸がつない
でいた。
「あー……お邪魔でしたか?」
「何でパチュリーがいるのよ!」
「私がお祭りなんかのために外に出るわけが無いですよ」
パチュリーはそれだけ言うと、ドアを閉めて出て行った――
が、戻って来て、
「ごゆっくり」
今度は完璧にドアを閉めて出て行った。
レミリアは顔を赤らめ、トロ~んとした表情で――
「ザ・ワールド」
そのままの色っぽい表情のまま時間を停止させた。
「まだまだです! 私の忠誠心が空になるまで、レミリアお嬢様との甘い時
間は終わりません!」
咲夜の精神力は強く、昨夜の忠誠心が空になるまで止まった時間内での動
かないレミリアとの百合百合しい時間を味わった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「咲夜」
「お嬢様……♡」
その夜。レミリア専用のベッド上では甘く危ない展開が繰り広げられる事
になったのでした。
めでたしめでたし!