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蒲公英  作者: 鍬花嘘人
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 朝目が覚めると私は、大きな溜め息を一つ吐いた。例のごとく部屋はひどい有様になっていた。ベッドに腰掛けたまま煙草に火をつけ、どうにか昨日のことを思い出そうとした。どうにもおかしい。以前ならばリストラされたストレスが限界まで溜まっていたための、いわば自分を保つための行動であったと思うことができた。しかし、最近では、英子と知り合い、毎日リハビリのまねごとをして、暫くは記憶がなくなることもなく、完全とまではいかなくともだいぶ人間らしさを取り戻してきているはずだ。それなのに、である。それなのに今回またしてもこの有様である。

 どうにも釈然としない思いでうんうんと唸っていたが、煙草を吸い終わる頃には諦めにも似た気持ちになった。何の気なしに視界を右側へ巡らせる。説明しておくと、そこにはクローゼットがある。しかし、この狭いワンルームにベッドを置いているため、クローゼットはベッドによって完全に塞がれてしまっている。そのためクローゼットを開けるためにはベッド一度避けなければいかず、そこまでして取り出したものも入っていないためクローゼットを開ける機会はめっきり減ってしまった。

いつから開けてないんだったか。一度気になりだすと、自分の思ったようにそれを制御できないのが人間の性である。などと大仰なことではないにしろ、しかし気になるのは事実である。開けてみるか、と思い手を伸ばしたがそこで思い留まった。なにか、言い表すことの出来ないなにか不吉な思いが全身に止めておけ!と訴えかけてきた気がしたのだ。

 私は気を取り直し、落ていたリモコンを拾い上げテレビの電源を入れた。画面には前に観たうさんくさい中年の男性キャスターが映し出された。なんでも例の連続通り魔事件の犯人に、ついに目撃者が出たらしい。出くわしたのは老夫婦で、車で帰宅する途中家の近くの路地で返り血を浴びた男と倒れた少女を目撃したという。老夫婦がパニックに陥っている隙に犯人は、逃走。慌てて老父が警察に通報したということらしい。チャンネルを回してみたがどの局も通り魔事件の話題で持ち切りだった。同じ情報を繰り返しているだけのテレビに嫌気がさし電源を切った。

 私は、手早く準備を済ませ今日も英子に会うために河川敷に向かった。


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