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夜の街にアスファルトを蹴り突ける音が木霊する。俺は、その後をゆっくりと追っていく。ゆっくりと、じっくりと獲物を追い詰めていく。体中を這い回る興奮が頭を痺れさせる。そして俺は、その痺れに、興奮に身を預け夢中になって獲物を追う。やはりこの感覚は、何度味わっても良い。顔にはどんなに隠そうとしても頬が緩み、にやにやとした笑いが浮かんでくる。俺は、鼻唄でも歌い出しそうな軽い足取りで薄汚れた建物の間を縫うように進んで行く。路地を抜けると人気のない道路に出た。足音のする方へ足を向ける。俺は、ジャケットのポケットに忍ばせたナイフを手で弄びながら歩みを進める。もうそろそろこのゲームもクライマックスだな。いや、これ以上は俺が待ち切れない。
すると、先ほどまで響き回っていた足音がぴたりと止んだ。おや、もう降参か。それともどこかに隠れたか。まあどちらでも構わない。結果は同じだ。
道なりに進んで行くと目に高いブロック塀が入ってきた。行き止まりだ。塀の足元には一人の少女がぺたりと地面に座り込んでいた。少女の肩は上下に起伏し呼吸はひどく乱れている。先ほど見たときには、平均よりも少しばかし身長が高く感じられたが、今の少女の背中はとても小さくか弱いものに見える。少女はゆっくりとこちら振り向いた。その顔には一面に恐怖が張り付いている。口では、「助けて」と繰り返しているが声にはなっていない。俺は、少女の表情に満足し、ポケットに突っ込んだ手を抜きながらゆっくりと少女に近づいていった。
静寂が辺り一帯を包む。俺の視界には赤い世界が広がっていた。絶頂を迎え、ぼうっとしていた頭も徐々に冷静さを取り戻している。手には、赤黒く染まったナイフが握られている。俺は、足元に転がる少女を見下ろした。少女は、ぴくりとも動かない。終わってみればあっけない。人間とはこんなにも簡単に命を落としてしまう脆いものなのか。転がる少女に冷たい視線を投げつける俺の中には、一抹の虚しさと激しい怒りがふつふつと湧き起こっていた。
突然、後ろから強い光りを浴びせられた。俺は、眩しさに目を細めながらふり返る。するとそこには一台の車が止まっていた。