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蒲公英  作者: 鍬花嘘人
1/7

1~2

はじめまして、鍬花嘘人です。拙い文章ではありますが、楽しんでいただけるよう頑張って書きたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします。感想など励みになりますのでお気軽にお願いします。それではお楽しみ下さい。

 悲鳴。静寂が支配する夜の繁華街に響き渡る。少女は、薄汚れた居酒屋と古びたスナックの間を縫うように走っていた。左手を赤々とした鮮血に染め、迫り来る恐怖から必死になって逃げていた。叫び続け、潰れてしまった喉からは「助けて」「助けて」と風にすら消されてしまいそうな声が漏れている。

 少女は、パニックに陥りながらも、夜遊びなんて慣れないことはするんじゃなかった、と後悔していた。押さえている左手に視線をやる。ブラウスは赤々と染まり見るからに痛々しい。しかし、不思議と痛みはなかった。視線を前に戻す。するとそこには黒々とした壁があった。高く分厚いその壁は、黙って少女のことを見下ろしていた。

 「行き止まり・・・」

 少女は、そっと囁いた。動こうとしない壁を前に少女は、ただ立ち尽くしていた。後ろからは、ゆっくりと、しかし確実に恐怖が近づいていた。


 2

 カーテンから漏れる光りで目を覚ます。つきっぱなしになっているテレビの音が頭にがんがんと響く。視線を巡らせると荒れた部屋が目に入る。ビールや酎ハイの空き缶が散乱し、部屋に唯一あるローテーブルはひっくり返っていた。私は溜め息をつき、落ていた煙草を拾い上げると、そこから一本取り出し火をつけた。ゆらゆらと揺れる紫煙を眺めながらまだ寝ぼけている頭を働かせる。昨日は確かすすきのの居酒屋で飲んで一旦は帰ったが、飲み足りなくなってコンビニで酒やらつまみやらを買い込んで家で飲んだのだったか。

 曖昧な記憶だがだんだんと状況が掴めてきた。要するにがばがばと酒を飲んだ挙句、暴れまわり潰れて眠ってしまった、といったとこだろう。

 最近は、よくこうなるので別段驚きはしない。最近、より正確にいうのならば三ヶ月前からだ。三ヶ月前、私は会社をクビになった。よくあるリストラというやつだ。しかし、私は所謂仕事人間というやつで、七年間会社のために生きてきた。自分でいうのもあれだが、私は入社当時から期待されていて周囲からも一目置かれる存在だった。仕事は決して楽なものではなかったが、やればやるほど結果が着いてきた。結果の出る仕事はどんな激務だったとしても苦にならなかった。私はどんどん仕事にのめり込んでいった。

 しかし、そんな順風満帆な私を疎ましく思っている連中も少なくなかった。自らの保身を考える上司、出世したい同僚たち。私が仲間だと思っていた奴らがどす黒い感情を秘めていることを知ったのは、結局会社を去る数ヶ月前のことだった。こうして仕事を失った私は、ただただ喪失感に苛まれた。仕事が私の全てだった。仕事人間だった私に何か特別な趣味があるわけもなく、飲めもしない酒に溺れる日々を送っていた。吸い終えた煙草を揉み消すと、身体に残ったアルコールを流すために風呂場へ向かった。

 軽くシャワーを浴びて部屋に戻る。身体がさっぱりすると頭まですっきりとした気分になる。私は、水を飲みながらテレビに目をやる。ここ最近起きている連続通り魔事件の速報をまるで自分の手柄のように語るレポーターがこれ見よがしに騒いでいる。なんでも昨日の晩、新たな犠牲者が出たそうだ。この事件は、若い女性ばかりが狙われていて、その残忍な手口と近所で起こっているということもあり、周辺の住人で知らない人間はいない。テレビにはやけに神妙な面持ちの年季の入った男のアナウンサーが映っていた。そこでこのニュースは終わったらしく、明るい顔の女のアナウンサーに映像が切り替わった。私は、風に当たりたくなり、テレビを消すと手早く準備を済ませ外へ出た。

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