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第二章 1 凶剣士レオン

主人公が使用するキャラが変わるので、章を分けることにしました。

川にかかる橋のたもとで一夜を明かした俺はメニュー画面から、サブキャラクターのステータスを呼び出した。

虚空に浮かび上がったホログラム画面の右側にはサブの縮小された姿が映し出され、左側にはステータスが表示されている。


俺は念のため、辺りを見回して人影がないか確かめる。

夜が明けてからそれほど経っていない。川べりには濃い霧が立ちこめていて、遠目からではまず気づかれる心配はない。

タッチパネルに現れたキャラクター変更ボタンをクリックすると、一瞬にして俺の姿がレスラー体型の大男から、痩せた体型の黒髪の男へと切り替わる。

ログインしてから一度も使用したことのないサブキャラクター【レオン】だ。

職業は魔剣士。攻撃特化型でHPと防御力は戦士職ワースト1位。


俺は土手をあがると、朝霧のなかをひっそりと歩き出す。

街は閑散としているが、決して人が少ないわけではない。最初の街から出られず、ログアウトもできないために人口が過密しているのだ。

街路に寝ころんでいる人を避けて、裏通りの酒場までいくと、何人かの酔っぱらいが行き違いに店を出ていった。

声を掛けようか迷ったが、絡まれても厄介だ。

PKをするなら街の外まで連れ出さなければならない。酔っぱらいを連れて危険なフィールドに出ていくのは誰が見ても不自然だろう。


酒場の扉を開けると、なかは見た目以上に広い。

ここはイーガンと飲んだ店とは中央広場を挟んで正反対の場所に位置する。街の裏門にあたる北の門から近く、店内は寂れた雰囲気が漂う。

入り口から一歩脇にずれて、空いた席を探すふりをしながら、さりげなく店のなかを観察する。


店内の人々はその装備品の服装を見れば、職業を見破るのは簡単だ。

戦士職はローブ系を装備できないし、同じ戦士でもハンターなら短剣、魔剣士ならば長剣という具合に、扱える武器に差がある。

まず目に付いたのは魔術師の男女二人組。。

なにかのギルドなのか、魔剣士の集団と、ブラックスミスの集団が一組ずつ。PTらしき混成集団が全部で7組。

その他いろいろだ。


そうしたうちの一つに、白いフード付きの衣服に身を包んだ者が三人組の姿があった。治癒術士の集団だ。

俺は期待していた獲物が見つかって、思わず口元が緩んだ。

「一杯奢るよ。ちょっと話に混ぜてくれないか」

「いいけど、俺たちはPTメンバーの募集中なんだ。酒を飲みにきたわけじゃないよ」

声が若い。見た目は俺とそう変わらない年齢だが、リアルではまだ学生なのだろう。

「そうか、なら話が早い。俺もPTを探してた。治癒術士が欲しい」

「君は魔剣士だね。ほかにPTメンバーは?」

「モブにやられた。俺だけ生き残ったんだ」

「そうか、気の毒だったね。でも君はモブとやり合ったんだな。俺たち、そういう人を捜してたんだ」

「じゃあ、PT成立だな。俺はレオン。見ての通り魔剣士だ」

こちらから名乗ると、向こうもそれぞれハンドルネームを口にする。右からサウス、マウントリバー、ウッドベルというらしい。


「ずいぶんと偏った編成だな」

「その、俺たちは元騎士なんだ。でも、今はちょっとあれだろ?」

現在、前衛を担う戦士職は激減している。

普通は戦士職のほうが人気があるのだが、あまりにモブが強すぎるために外に出たがらないのだ。

街のなかを歩くときでさえ、声が掛からないようにサブキャラクターを使用している。

それにしても、この三人は自分たちで前衛を勤められるくせに前衛を募集していたのか。

もっとも俺はこれから、この三人を殺そうとしているのだから、文句を口にできる訳もないが。


「わかるよ。俺も治癒術士のほうが都合がいい。それで、PTを探してたってことはフィールドに出るつもりだろ」

「ああ、ここでじっとしてても、攻略なんてできそうにないしね。ゴーレムとやろうと思ってる」

「例の噂か」

「どうやら知ってるみたいだね」


街で囁かれる噂の一つに、ゴーレムの簡単な倒し方、というのがある。

ファンタジーに詳しい人間なら、ゴーレムに弱点があるという話を聞いたことがあるかもしれない。

ゴーレムには、体の一部にemeth(真理)という言葉が書かれていて、壊すときにはeの文字を消し、死を意味するmethにすれば良いと言われている。

伝承通りなら額に書かれているそうだが、ゴーレムとやりあったプレイヤー達のなかにも、文字を見たという者はいない。


「早速、行ってみるか」

「ええっ、今すぐか?」

「早いほうがいいだろ。一番乗りすれば称号がつくかもしれないしな」

「それはそうだけど」

俺はまだ心の用意ができてない三人を急かすようにして、店の外へと連れ出した。北門はすぐそこだ。

俺は前を歩く三人を眺めながら、腰に差した剣の感触を指でそっと確かめた。



ゴーレムは多くのプレイヤーが最初に遭遇するモブだ。

いつも街の外をうろついていて、たいていは単独で行動している。

キラービーや、ゴブリンの湧出ポイントは南と東に分かれているらしく、北門からなら遭遇する危険は少ないはずだ。


PK(プレイヤーキル)を完遂させるためには、絶対に街のなかに逃げ込ませてはいけない。

もし一人でも討ち漏らせば、情報が知れ渡って警戒され、最悪の場合、自分がPKK集団に追われることになる。

できるだけ門から遠ざかりつつ、安全にPKを行うには街の外壁に沿って移動するのがベストだろう。


門と門の距離は互いに遠く離れていて、街の外壁に建つ8つの塔を見上げれば、次の門に着くまでの距離が掴める。

俺は北西の塔の真下まで来たところで足を止めた。

三人には、まずはゴーレムをよく観察してから攻撃を仕掛けると言ってある。

ここまで連れてきておきながら、今になって本当に殺すのか、という自問が首をもたげてくる。


丸一日掛けて覚悟を決めたつもりだった。だが、言葉を交わしてしまうと、たったそれだけで迷いが生じてしまう。

三人とも、悪い人間ではない。

普通のどこにでもいる少年たちだ。楽しく遊ぶつもりが突然、ゲームのなかに閉じこめられ、それでも脱出の糸口を見つけようと頑張っている。

俺は強く唇を噛みしめる。痛みが心を奮い立たせてくれる。

モブを倒すためにはレベル上げが必須だ。そのための方法は今のところPKしかない。そして、このゲームは悪魔のパズルのように巧妙に仕組まれている。

現実世界で寝たきりのまま、ゲームの世界に安住するわけにはいかない。肉体と精神が引き離されている時間が長ければ長いほど、現実に戻ったときの反動が大きく、失うものも多い。


俺は再度、決意を固めた。


剣を抜き、後ろを歩く三人と対峙する。

俺が抜いたところで三人は怯えるそぶりも見せない。

ゴーレムが近づいてくる。索敵にひっかかったわけではないだろう。歩みは遅い。


「これから仕掛ける。バリアフォースを展開してくれ」

三人とも素直に頷いて、支援魔法バリアフォースの詠唱を始める。

バフがかかれば、俺の防御力は大幅に上がり、一時的にHPも増える。

だが、俺は治癒術士たちの詠唱が終わるのを待つことなく、一気に右側の一人に詰め寄った。

「!?」

戸惑った顔が、次の瞬間には斬撃のエフェクトとともに苦悶の表情へと変わる。手応えが硬い。

防御力の高い治癒術士は一撃では殺せない。さらに踏み込んで斬りあげる。

畳み掛けるように放った三撃目で、ウッドベルと名乗った少年は赤いエフェクトをまき散らしながら倒れていった。


「コイツ、PK(プレイヤーキラー)だ! くそっ!」

向こう二人は仲間を殺され、悪態を吐く。

ここからさらにスピードを上げる。進路を塞ぐようにステップして連撃。

とっさにメイスで反撃を仕掛けてくるが、かえって好都合だ。

「くそぉっ、なんでPKなんかすんだよぉ、人殺しめ!」

治癒術士は攻撃魔法がなく、物理攻撃力もさほど脅威ではない。

泣きそうになりながらメイスを振り回す二人目を、落ち着いて始末する。


最後の一人、サウスが逃げ出した。

ここでスキルを発動させる。魔剣士の基本スキル【ダッシュ】。

防御力が低く、HP量の乏しい魔剣士はヒット&アウェイを繰り返しながら敵を削るのが基本戦術となる。

そして敵が背を向けるや即座に追撃をかける。この高速連続攻撃こそ魔剣士の存在理由。

やすやすと追いすがり、クリティカル二発。三撃目はオーバーキルとなった。

「なんで・・・だ・・・」

最後の一人が門にたどり着くことなく息絶える。


戦闘が終了すると同時に、ファンファーレが鳴った。まるで質の悪いジョークだ。

視界の中央にシステムログが浮かび上がる。

【魔剣士レオンはレベルが1上がった】

【魔剣士レオンはスキル《オーラブレイド》を会得した】

【魔剣士レオンは称号「辻斬り」を獲得した】

『クエスト「惨劇の序曲」がソロ×××によって達成されました』

最後のアナウンスはプレイヤー全員に対して告げられたものだ。

どういうわけかクエストのクリア条件を満たしていたらしいが、名前が伏せられている。

殺人者は未だ捕まらず、といったところか。




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