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4:街を歩く、心軽く?

思えば、この街を誰かと連れだって歩くのは、かなり久しぶりだ。 PT(パーティー)をフィールドに連れ出したときは門のすぐそばだったし、ときどき顔見知りと話すくらいで、後はずっと一人だった。こんな風に隣に誰かがいて並んで街のなかを歩いていると、デスゲームのなかに閉じこめられたという絶望感がほんのちょっとだけ和らぐ。

「ところで鉄血さんのサブはどんなキャラなんですか」

アヤカが話の種としては非常に不都合な話題を振る。

「俺は、作ってなかったんだよ」

「へえ、騎士一択ですか。勇者ですね」

その勇者たちは現在、大爆死中だ。もっぱら俺の手によって水面下で虐殺が進行している。


本当は俺にはレオンというサブがいるが、アヤカにそれを話すわけにはいかない。ステータスを見れば一目でPKがバレてしまう。

俺は隣を歩くアヤカの様子をそっと窺う。


まっすぐ前を見据える瞳、首筋はほっそりとして鎧に覆われた胸は未成熟であるかのように小振りだ。

腰回りは鎧ではなくスカートになっていて、歩く度にひらひらと揺れている。

外見の逞しさがステータスに影響するわけではないが、いかにも荒事に向いてそうにない。

「ところで鉄血さんは普段なにをしてるんですか」

「俺は・・・」


そのとき、俺たちの目の前で民家の屋根から屋根へ、奇声を上げながら飛び移っていく男たちの姿が見えた。

近頃流行り始めたパルクールと呼ばれる、障害物ランニングだ。高所から飛び降りたり、壁を駆け上ったりと、まるで忍者のように街中を駆け回る。

始まりの街から出ることのできない鬱屈を身体を動かすことで発散しているのだろう。

俺も無性に身体を動かしたくなってくる。

「そうだ、練兵場へ行ってみるか」


SOには他のプレイヤーと腕比べができるような決闘システムは基本的に存在しない。

基本コンセプトからしてPK仕様のデスゲームなのだから、それも当然だろう。

その代わり、街のなかには練兵場と呼ばれる施設があり、訓練専用アイテムである木刀を使って訓練できるようになっている。

木刀でもHPを削れるが、攻撃力はほとんどないため、まず死ぬようなことはないし、治癒術士たちも待機している。

木刀は外にも持ち出せないため、施設はいつも混み合っているのだ。

「あそこ、いつもいっぱいですけど」

アヤカも何度か練兵場に足を運んだことはあるらしい。

「どうせ暇なんだ。並んだっていいだろ」

練兵場は中央北寄りにある煉瓦造りの平屋だ。

相変わらずの混み具合だが、常駐していた大手ギルドが群衆からの怒りを買って追い出されてからは、状況が改善されている。PK解禁のデスゲームで不特定多数から恨まれたら、なにをされるか分かったものではない。大手ギルドといえど、大人しくならざるを得ないのだ。


順番待ちをしてから小一時間ほどすると、練兵場の一角が空いた。

俺はアヤカに木刀を一本手渡して、正面から対峙する。

「なにか賭けるか?」

「じゃあ、負けたほうは相手の言うことをひとつ聞くと言うことで」

アヤカは自信ありげに木刀を構える。コイツは自分がセクハラされたことを忘れたのだろうか。

「いいだろう。勝って騎士が地雷ではないことを証明してやる」


お互いに3メートルほどの距離を置いて、木刀を構える。アヤカの構えは堂に入ったもので、力んだ様子がない。

おそらく剣道の心得があるに違いないが、残念ながらここは現実とは違う。

俺は木盾を構えて、猛然と突進した。

「剣道に、こんなときの対処法はないだろ!」

盾を構えたまま、剣で横薙に払う。空を切る手応えだ。アヤカは一瞬にして、こちらの背後に回っている。

まずい、バックスタブか!

急いで左反転し、スタブ返しで応じる。互いの剣が空を切る。今の攻防は完全にアヤカに遊ばれたようだ。


「たしかに剣道ではバックスタブもローリングもやりませんからね、剣士はやってて楽しいです」

「なるほど、それでゲーマーになったってわけか」

ゲームは悪く言ってしまえば現実逃避の一種だ。

ゲームのなかでも剣を握っているくらいだから、本当に剣道が好きなのだろうが、現実でなにか嫌なこととか、つまづくことがあったりしたのかもしれない。

アヤカは自分の優位性を確信したのか、今度は積極的に攻撃を仕掛けてくる。

騎士は最前線で敵の攻撃を受けるのが基本のスタンスだから、相手から攻めてきたほうがやりやすい。

相手のモーションを見極めて攻撃の来る位置を予測する。ここから先はパターンの読み合いだ。

ディレイを仕掛ける、間合いをとる、あるいはダッシュをかけてくるか、ローリングで距離を詰めるか、それらを相手がいつやってくるか。


こちらが盾を構えてチクチクと攻撃を仕掛けていると、アヤカが距離をとって、攻撃範囲ギリギリのところで、出方を窺い始めた。

攻めてくるかと思えば、またすぐに離れるを繰り返し、こちらの距離感を狂わせるように、じわじわとにじり寄ってくる。

いつ仕掛けてきてもおかしくない。ローリングはしてこないだろう。モーションの終わりにスタブをとられやすい。

だとしたら、上から来るか、下から来るか。

アヤカがダッシュ攻撃で突きを見舞ってくる。フェンサーのようにストライドを広げ、遠間から最高速の一撃。

俺は盾を正面に据えて、反撃の力を蓄える。

その時、盾で狭まった視界の外から、振り上げられた剣先が閃くのが見えた。

突き攻撃はフェイントか!

俺は中段から上段への対処へ移る。盾で頭部を守りつつ、下から剣で突き上げるのだ。

刹那、鋭い一撃が俺の胸を突き上げた。

突き→上段→突きへと流れるような一連の攻撃はスキルによるものではない。アヤカが自ら身につけた攻撃だ。

VRMMOの上級者なら、誰でも必殺パターンの一つや二つを必ず持っているものだが、スキルに拠らずにパターンを完成させるものは珍しい。

システムによるアシストを受けないため、軌道が予測できない。初見で回避するのは、不可能に近い。

しかし、それを行うには卓越した反射神経が必要不可欠だ。


「強いな。謙信に鍛えられたか」

モブとの戦闘で死亡した先代ギルド長の名前を出すと、アヤカはわずかに表情を曇らせて頷いた。やはりか。

彼女の攻撃スタイルは見事なまでにゲームシステムに対応している。単に剣道の経験者というだけでは、こうはならない。

俺も彼女を鍛えてみたいと思った。イーガンが俺と彼女を組ませたのは、案外これが狙いなのだろうか。


その後、1時間の練習時間をフルに使用して、俺たちは練兵場を後にした。

外は宵闇が深くなり始めていた。





パルクールはアサシンクリードというゲームでも出てくるみたいです。

興味がある人は動画検索してみてください。

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