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Mädchen Lippen    作者: Mayo
Traum
31/32

Traum Ⅳ


 シャルロッテが涙を流してから2日後、一行はリベルハイト王国にたどり着いた。街はどこかひんやりとしており、人々の顔色はあまりよくない。やはりここで何かが起こっていると、シャルロッテは目を細めた。



「それでは姫、我らは国王の元へ向かいましょう」



 休む間もなく、リシャールはシャルロッテにそう告げた、ゆっくりとオデットが馬から降りると、リシャールもシャルロッテの馬を引くために降り立った。オデットはひらりとリシャールが乗っていた馬に乗り換えると、シャルロッテにウインクを飛ばす。



「それでは姫様、エルヴィーラへ行ってまいります。集合場所はアルベールの家です、お間違えなく。途中で大馬鹿ランフォードを見つけたら必ずお知らせしますね!」



「ありがとうオデット。気をつけて」



 オデットは再度微笑み、颯爽と駆けていった。残された二人は、静かに王宮までの道のりを進む。周りからの視線を軽く交わしながら、シャルロッテは神妙に“姫の顔”を作って歩いた。



「ねぇ、リシャール」


「なんでしょうか、姫」


「王は、すべてをご存じだと思う?」



 それが問題なのだった。この国で何が起こっているのか、王はどの程度気づいているのか。花を欲していると伝えると、なんと帰ってくるのか、まったく予想ができない。



「僕にお任せください姫様、交渉事にはなれております」



 ふと盗み見たリシャールの瞳は、かつてないほど強い輝きを放っていた。




「リシャール、貴方…」




────人ひとり殺せそうな目をしているわ



 シャルロッテのつぶやきは、風に消えた。












「とうとう、ここまで来ましたよ、国王」


 アークライトは少しやつれていた。体調は回復したものの、最近のアークライトからは生気が感じられない。まるでヴァイオリンが彼の魂を吸っているようだと誰もが噂するように、比例して彼の奏でる旋律は瑞々しく潤っていく。



「全員、リベルハイトへ集結しました。ようやく、ようやく…」



──僕の、悲願が。



「王、良い天気です。まるで僕たちを祝福してくれているようだ!」



 王は答えない。ただ静かに、虚ろな瞳でぼんやりと天井を眺めているだけだ。その隣には、同じくぼんやりとした表情の王妃がいた。美しさはそのままに、どこか物憂げな空気をまとった彼女は、何かを患っているようにも見える。



 ふたりに優しく微笑みかけながら、なおもアークライトはヴァイオリンを奏で続ける。ふと窓から薔薇園を覗き込めば、そこには召使とおしゃべりを楽しむ姫の姿。どこか愛おしそうなまなざしを投げると、哀れな奇術師はそっと窓をしめた。



 彼の深紅の瞳が不吉なまでにぎらついて、鎮魂歌はなおも激しく鳴る。生きたものからも魂を吸いだしてしまうほどの、強力な旋律だった。






「嘘…」



 アルベールの家に一人の使者がやってきたのは、シャルロッテ一行が到着した数時間後のことだった。ただたんたんと事実だけを告げると、何の言葉もなく使者は去る。残されたミュリエルは、声を上げて泣いた。



『フランシス・マティアス・ラヴォー様が、原因不明の失踪』



「なんで…どうしてお兄様が…!」



 アルベールは、ただ泣きじゃくるミシュリーヌを抱きしめながら、顔を青くしていた。自分を騎士団長にまでしてくれた義兄。おそろしく頭が切れ、そして強い彼が、失踪など…



「ありえない」



「アルベール…」


「ミュリエル、こんなことはありえない。何か、何か、」



──理由があるはずだ



「僕は、義兄上を探さなくてはならない。だからミュリエル、君はここにいるんだ。ランフォードさんたちが頼ってきたときは、きちんとすべてを話すこと。ランフォードさんの約束を破ることにはなるけれど、あの人でもきっと、」



──きっと、こうすると思う。



 ミュリエルはじっと蜂蜜色の瞳を見つめる。いつか、国を救いたいと言って駆けていったときと同じ輝きを放っているその瞳は、今度こそすべてを救うと決意しているように見えた。



 静かにうなずき、微笑む。



「いってらっしゃい、あなた。どうか、お兄様を」



 アルベールはそっとミュリエルを抱きしめる。



「必ず、見つけ出す」



 力強い一言は、彼自身を奮い立たせるためのものだったのかもしれない。








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