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日常の一場面

あれ、それ、これ、どれ

作者: はてな小僧
掲載日:2026/08/11

登場人物

渚 : 妻

翔 : 夫




【7:14】


「それ取って」


朝食を食べながら、向かいに座る夫へ手を伸ばす。


夫がティッシュ箱を渡してきた。


「違う。それ」


今度は醤油。


「それじゃない」


「じゃあ何?」


「そこにあるやつ」


「どれ?」


「その横」


夫が視線を動かし、ようやく私が指していたものに気づいた。


「これ?」


「そう、それ」


渡されたドレッシングを受け取る。


「最初からドレッシングって言えばいいじゃん」


「見たら分かると思った」


「分からん」


ごもっともである。


【17:48】


仕事から帰ると、今度は夫が台所から声をかけてきた。


「あれ、どこ?」


「何?」


「あれ」


「何の?」


「昨日使ったやつ」


昨日使ったもの。


範囲が広すぎる。


「何に使ったの?」


「ほら、あれに」


「分からない」


「昨日やったじゃん」


「ああ、あれ?」


「そう、それ」


分かった。


引き出しを開け、中に入っていたハサミを取り出して渡す。


「これでしょ?」


「そう」


受け取った夫は何事もなかったように台所へ戻っていった。


通じるんだ。


【18:03】


夕飯の支度をしていると、リビングにいた夫が言った。


「今日来るって」


「何時?」


「六時くらい」


時計を見る。


もう六時を過ぎている。


「じゃあ、そろそろだね」


「うん」


そのまま夕飯の支度を続ける。


しばらくして、インターホンが鳴った。


「あ、来た」


夫が立ち上がり、玄関へ向かう。


戻ってきた夫の手には、段ボール箱があった。


「何それ?」


「荷物」


「荷物?」


「うん」


「誰か来るんじゃなかったの?」


「誰が?」


「知らないよ。今日来るって言ったじゃん」


「荷物が」


「荷物って言ってないじゃん」


「分かってると思った」


「分からん」


「あれ」「それ」「これ」で会話することはあります。


なぜか通じることもあれば、まったく通じないこともあります。


ちなみに、生活時間が違うため、夫婦で朝食を一緒に食べたことはありません。


このお話は創作です。

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