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ディスカッション 前編

「覗き見はしていないわ。がっつり見ていたもの。」

「えぇ……」


 ◆


 はいどーも、チーム・ミスリルの瑠璃ちゃんだよ!

 というわけで、前回、論文を査読しました!

 Methods は私の立場ではどうしようもないので、Discussion をしようと思います!

 そんなわけで今回は、ゲストをお呼びしております!

 わ~パチパチ~!!

 チーム・ミスリルの、ミスリルちゃんです!


 って、身内かよ、って言うね。


 ◆


「こんにちは、チーム・ミスリルのミスリルです。よろしくお願いいたします。」

「わ~、相変わらず丁寧だね~。そのキャラで行くん?」

「キャラとかないです。」

「はっはっは。まあそういうことにしておきましょう!では行ってみよう!ディスカッション!」

「IMRaD形式って何ですか?」

「うわぁ悲しい。前回の動画見てくれてない系だ。」

「そうね、あなたの一人遊びは覗き見してはないわ。」

「はっ、そうだった!異世界ネットないんじゃん!動画残ってるわけねーってね。てへぺろ☆」

「で、IMRaD形式って何かしら?」

「おーい、ミスリル、素がでとりまっせ!」

「キャラでした。慣れないから物語紡ぐときだけにするわ。続けて。」

「まぁいいんじゃね?というわけで、IMRaD形式って何かは、本編のあらすじを読んでね!」

「……なるほど、だからこれから議論をするわけね。」

「そういうこと。前回は、この論文、形式はあるけど運用がだいぶ怪しいよね、って話をしたんだけど。」

「Methods が薄い、Results と Discussion が癒着している、緒言の時点で怒っている、だったかしら。」

「そうそう。論文としては、なかなか味わい深かったですねえ。あれ、一人遊びは覗き見してないんじゃ。」

「覗き見はしていないわ。がっつり見ていたもの。」

「えぇ……」

「味わい深いって言い方、だいぶ優しいのね。」

「そこはほら、研究指導も仕事なんで。最初から全否定すると伸びないから。」

「伸ばす気があるのね。」

「いや、この先生自身を伸ばしたいかはちょっと怪しいけど、読み物としてはめちゃくちゃ良かった。」

「つまり今日は、その良さがどこから来ているのかを考えるのね。」

「そう。なんでこんな、論文の顔した告発文みたいなものが書けちゃうのか、って話。」


 ミスリルは少しだけ首を傾げた。


「まず単純に、この時代の学者って、日本の大学教員みたいな職業人ではないでしょう。」


 ミスリルには日本についていっぱい話した。

 私も、この世界について、いっぱい教えてもらった。

 改めて既に聞いたこともまた聞いたりして、議論していこうと思う。


「うん、そこだよね。たぶん大前提として、学者っていうより、王国の秩序を言葉で支える人なんだよ。」

「支配の側の記録官、解説者、あるいは正統性の代弁者。」

「そうそう。だから最初に神の理とか贖罪の日々とか出てくる。ああ、しまった。難しいね、教えてもらっちゃってることを知らない顔すんのって。」

「まあ、いいんじゃないかしら。どれだけ頑張ってもほら、あれでしょ。」

「異世界ネットない!ってね。はい、じゃあ議論に戻ります。」

「最初から結論を背負った用語で書いているのね。」

「うん。私からすると、用語定義の時点で勝負を決めに来てるように見えるけど、たぶん向こうからすると、それが常識なんだと思う。」

「つまり、学問的に中立であることが善、という価値観がまだ弱い。」

「たぶんね。もちろん、全く無いとは言わないけど、少なくともこの先生はそこを優先してない。優先してるのは、解釈権。」

「辺境伯領で何が起きたかを、どの言葉で固定するか。」

「それそれ。聖女なのか。悪法なのか。異種の民なのか。イシュなのか。」

「名前を決めた者が勝つ、ということね。」

「うわ、今の上手い。メモっとこ。」


 ミスリルは無視した。


「でも、それならなおさら、なぜ論文形式を取る必要があったのかしら。」

「お、そこ大事。」

「檄文でいいなら、最初から説教文でも布告文でもいいはずでしょう。」

「うん。そこはたぶん、効く場所の問題。」

「効く場所?」


 ぐぬぬ、ミスリルの方が知っていることを知らないふりするのが明らかにうまいぞ。

 よし、役割ちぇーんじ!


「檄文は、怒ってる人には効く。でも、国の中枢とか、後世の記録とか、学院とか、そういう場所に残したいなら、論文の顔をしてたほうが強い。」

「なるほど。内容は怒っていても、体裁は権威を借りる。」

「そう。しかもこの先生、たぶん本気で自分は理性の側にいるつもりなんだよ。」

「ええ、そこが面白いわ。文章の温度は高いのに、本人の自己認識は冷静な学者側にある。」

「だからこそ、史学的見地から糾弾することにある、って書けちゃうんだろうね。」

「糾弾を、学術と矛盾する態度だと認識していない。」

「むしろ、正しい歴史認識を示せば、自動的に糾弾になる、くらいの感覚なのかも。」

「だとしたら、Methods が薄いのも説明がつくわね。」


 うーん、ミスリルの才能が怖い。

 それを独り占めするってのも贅沢だねぇ。

 へっへっへ。


「なかなかセンスがいいねぇ。その心は?」

「方法を開示して、読者と一緒に慎重に考える必要がないのね。正しい前提は共有されている、という顔をしているのだから。」

「そうそう。神の理も、人と異種の序列も、もう共有済みでしょ、って顔。」

「だから、観察された、と言えば通じる。」

「誰が観察したか、どの範囲を、どの史料で、ってところは後回し。」

「後回しというより、重要ではないのかもしれないわね。」

「うわ、それだ。」

「重要なのは、結論に向かって秩序を立て直すこと。方法論の透明性ではなく。」

「異世界アカデミア、こわ。」

「でも、そういう学問って、現実の歴史にもいくらでもあったのでしょう。」

「ありますねえ。」

「異端を研究するふりをして、異端であることを再確認するための文書。」

「ありますねえ。」

「女性や植民地や辺境を記述するふりをして、既存秩序を補強するための文書。」

「ありますねえ。」

「つまり、この論文は別に特殊ではない。」

「うん。むしろ、ちゃんとそれっぽい。」

「ちょっと考えたいからいったんお開きにしましょう。」

「そだね。続きはまた明日!そいじゃね~!」

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