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辺境伯領における異種憐みの令と聖女現象の考察

 史学的見地のくせに感情で糾弾してるじゃん!


 ◆


 はいどーも、チーム・ミスリルの瑠璃ちゃんだよ!


 IMRaD形式あんじゃん、異世界。

 というわけで、異世界の論文を読んでみた~!!


 いや、冒頭の圧が強い強い。

 緒言でいきなり神の理だの贖罪の日々だの、世界観の前提を読者と共有済みの顔で殴ってくるの、学術というよりだいぶ檄文なんだよね。


 で、目的はどこかな~と思って見たら、ちゃんと本稿の目的は、って書いてある。

 えらい。

 えらいんだけど、その直後に、歴史学的見地から糾弾することにある、はだめでしょ。

 糾弾は目的じゃなくて、せいぜい論評の態度なのよ。

 そこは、検討するとか、分析するとか、再構成するとか、そういう逃がし方をしなよ。

 緒言の時点で結論の感情がだだ漏れなの、読者に優しくないからね。


 あとさ、IMRaD形式あるとすんじゃん、異世界。

 だとしたら、M が薄い。

 Methods、方法。

 どこで何をどう読んで、何と何を比べて、その結論に来たのかが、まだ見えない。

 観察された、って便利な言葉だけど、観察したの誰。

 いつ。

 どの範囲。

 史料は。

 証言は。

 そこをふわっとさせたまま、悪法でした、簒奪でした、って走り出すの、わりと危ないです。


 しかもね、Results と Discussion が、たぶん手を繋いで暴走してる。

 本来は、こういう記述が確認できました、こういう変化が見られました、が先。

 そのあとに、だからこれはこう読めますよね、が来る。

 でもこの論文、たぶん結果の段階でもう怒ってる。

 早い早い。

 考察に行く前から顔が赤いのよ。


 うん、まあね。

 なんとなくそんな予感はしてたよね。


 史学的見地のくせに感情で糾弾してるじゃん!


 もちろん、わかるよ。

 言いたいことは。

 わかるんだけど、論旨の飛躍って、情熱があると余計に目立つんだよね。

 たとえば、異種の民を保護対象へ格上げした、から、農耕が壊滅的打撃を被った、まで。

 その間の因果、ちゃんと架橋して。

 害獣の増加、農地被害、収穫量の変化、住民証言、できれば年ごとの比較。

 そこを出してくれないと、読んでる側は、ああ、この人いま感情でショートカットしたな、って気付いちゃうから。


 あと、孤児院のくだりね。

 上等な服で着飾らせるという倒錯した光景、って、語彙がもう論文の皮を被った悪口なんよ。

 いや、嫌いじゃないよ。

 嫌いじゃないけど、学術の文章としては、もう少し我慢してほしい。

 せめて、視覚的印象が支配秩序の逆転として受け取られた、とか、そういう書き方にして。

 倒錯した光景って言い切った瞬間に、お気持ちが先頭打者で出てきちゃってるから。


 でもね。

 私はこういうの、わりと好き。

 だって、理性の顔をしてるのに、ところどころ我慢できなくて感情がはみ出してる文章って、めちゃくちゃ人が出るじゃん。

 あ、この人ここが本気で許せないんだな、ってわかるから。


 ただし。

 それは論文として強い、とは別の話なんだよね。


 たぶんこの先生、論文として勝ちたいんじゃなくて、歴史の解釈権を取りたいんだろうね。

 辺境伯領で起きたことを、誰の言葉で固定するか。

 聖女だったのか。

 悪法だったのか。

 被害者は誰で、加害者は誰だったのか。

 そこを、最初に言い切った者が勝つ、みたいな焦りがある。


 で、そういう焦りがある人ほど、方法論をすっ飛ばして結語へ走る。

 あるあるです。


 あと気になるのは、異種の民に対する語り方が、最初から結論を内蔵してること。

 魔の血を引く、と置いた瞬間に、もう人間社会の秩序から見た位置づけが固定される。

 そこから先は、どんな事実が出てきても、解釈がだいたい一方向に流れるんだよね。

 これ、論文っていうより、用語定義の時点で勝負を決めに来てるやつです。


 怖いねえ。

 でも、上手いねえ。

 怖いけど。


 いやほんと、読めば読むほど、資料としては面白い。

 何が事実かっていう意味でももちろんなんだけど、それ以上に、この時代の王国のエリートが、何を恐れて、何を秩序だと思っていたかが、めちゃくちゃ滲むから。

 そういう意味では、これ、一次資料としては強いです。

 論文として強いかは別として。


 つまり総評。


 形式点。

 甘めに見て、ある。

 でも Methods が薄い。

 Results と Discussion が癒着してる。

 緒言でキレてる。

 結語でもキレてる。

 ついでにたぶん執筆中もずっとキレてる。


 じゃあ、ぐだぐだ言っててもしょうがないので、いったん本文を見ましょう。

 こういうのはね、実物を浴びるのが一番早いです。

 ツッコミどころは、だいたい本文の中で増殖するから。


 本文貼っとくよ~!


 ◆


『辺境伯領における異種憐みの令と聖女現象の考察』

        執筆者:ラウルス・ヘゼニアヌス(王立学院歴史学名誉教授)

【緒言】

 神が授けし理に背き、魔の血を引く「異種のイシュ」。彼らは本来、ヒトの慈悲のもとで贖罪の日々を送るべき存在である。しかし、我が王国の辺境、あの外壁に囲まれた特異な街において、歴史の歯車は極めて不穏な音を立てて逆回転を始めた。

 本稿の目的は、辺境伯令嬢リルが発布せしめた稀代の悪法『鳥獣憐みの令』が、いかにして神聖なる秩序を歪め、不可解な「聖女信仰」へと変質していったかを、歴史学的見地から糾弾することにある。


【偽りの慈愛と経済的簒奪】

 当該地域において観察されたのは、動物愛護という美名に隠れた、ヒトの生存圏の放棄である。令嬢リルは、あろうことか獣を傷つけることを禁じ、あまつさえ「イシュ」を保護対象へと格上げした。これにより、外壁外の農村では害獣が跋扈し、ヒトの農耕は壊滅的打撃を被った。

 特筆すべきは、罰則金という名の徴収システムである。役人ネロ、オクパトスなる者らが構築したこの収益構造は、孤児院という名の隔離施設を肥大化させ、本来支配されるべき異種の民を、ヒトよりも「上等な服」で着飾らせるという倒錯した光景を生み出したのである。


【均衡決壊と反乱の必然】

 秩序の歪みは、必然的に暴力という形での修正を求める。困窮を極めた民衆が、悪法の象徴たる孤児院に対し決起したのは、生存本能の叫びであった。

 しかし、ここで予期せぬ事態が発生する。殲滅すべき対象であったはずのイシュが、暴力に対し暴力で応ぜず、あろうことか「悲嘆」と「拒絶」を以て対峙したのである。水源の崩壊と共に、物理的にも倫理的にも均衡は決壊した。


【結語】

 我々が注視すべきは、現在その中心に座す令嬢リルの「無知」である。彼女は自らが撒いた種が、いかにしてヒトとイシュの均衡を破壊したか、その全貌を把握しておらぬ。

 この物語は、聖女の皮を被った「無自覚なる破壊者」が、神の秩序をいかに蹂躙していくかの記録である。読諸兄には、この「箱庭」が崩壊する様を、冷徹な理性を以て見届けていただきたい。

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