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勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生
雑務課 業務日誌総括

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第98話:資源不足

執務室の空気が、これまでにないほど乾燥し、刺々しいものに変わっていた。机の上に広げられた大陸全土の資源状況マップは、かつての豊かな緑や鮮やかな青を失い、警告を示す鈍い灰色に染まりつつある。ミラが投影したホログラムの数表が、冷酷な現実を俺たちに突きつけていた。


大陸全土で開始された復興事業。それは平和の象徴であったはずだが、今やその巨大な熱量が世界の蓄えを食いつぶそうとしている。


報告します。大陸中央部の木材備蓄量は、平時の十五パーセントまで低下。建築用鉱石の供給ラインは各地で停滞しており、予備在庫は十日分を切りました。そして最も深刻なのは、主要河川の上流部での水流制限です。このままでは、復興どころか現存する都市の維持すら危うくなります。


ミラの報告に、トウマが眉間に皺を寄せながら自身の計算機を叩いた。


物流網は完璧に機能しています。しかし、運ぶべき中身がなければ、それはただの空洞の糸に過ぎません。現在の復興速度は、資源の再生速度を遥かに上回っています。これは事務的なミスではなく、この世界の物理的な限界という名の致命的なバグです。


サニアが溜息をつき、各派閥から届いた抗議文の束を俺の前に置いた。


状況をさらに悪化させているのは、各種族による資源の囲い込みです。エルフは森の神聖さを理由に木材の切り出しを全面停止し、ドワーフは自国の再建を優先して鉱石の輸出を差し止めました。そして人族は、河川の管理権を盾に、下流にある獣人居住区への水供給を制限し始めています。


俺は椅子に深く腰掛け、天井を見上げた。かつては魔王軍という外敵を倒すために、彼らは手を取り合ってリソースを共有した。だが、敵がいなくなった平和な世界では、資源は分かち合うものではなく、奪い合い、守り抜くべき利権に成り下がっていた。


執務室に、各派閥の代表たちが再びなだれ込んできた。以前の会議よりもさらに殺気立っている。


事務屋、いい加減にしろ! 我らの森はこれ以上の略奪には耐えられん。これ以上一本でも木を切り出すというなら、エルフは全拠点のデータリンクを遮断するぞ。


ドワーフも同じだ。俺たちが掘り出した鉄を、なぜ人族の贅沢な街路灯に使わねばならん。鉱石はすべて、我らの地下都市の防壁に回させてもらう。


人族の代表も負けてはいない。

上流にある湖を管理しているのは我々だ。水を流してほしければ、それに見合うだけの石材を寄越せ。さもなくば、お前たちの畑はすべて砂漠になると思え。


会議室は再び罵声の渦に包まれた。カイルが間に割って入ろうとするが、その声は怒号にかき消される。勇者が剣の柄に手をかけたが、ここで武力を使えば、脆弱な平和の均衡は一瞬で崩壊するだろう。


俺は黙って、ペンを机にコツコツと叩きつけた。その規則正しい音が、やがて怒号の隙間に入り込み、一瞬の静寂を作った。


喧嘩なら他所でやれ。ここは雑務課だ。お前たちの感情的な所有権を主張する場所じゃない。


現在の供給量に再生速度を足しても、需要を満たせない。これがこの大陸の現状だ。お前たちが自分の領地の資源を抱え込んで死にたいというなら、俺はそれを事務的に受理するだけだ。だが、その結果として世界がどうなるか、計算したことはあるか?


俺は冷徹な目で代表たちを見渡した。


ドワーフが鉱石を止めれば、エルフの森を管理するための魔導工具が作れなくなる。エルフが木材を止めれば、人族の治水施設の補強ができなくなり、結果として上流の湖が決壊してお前たち全員が溺れる。獣人の物流が止まれば、誰の元にも食料は届かない。


俺は再び椅子に座り、新しい契約書の雛形を画面に表示させた。


領土という概念を一旦、事務的に凍結する。これからは、大陸全体の資源を一つの共有在庫として管理する。各種族には、提供した資源量に応じた大陸共通ポイントを付与し、それを用いて必要な資材と交換させる。


それは我らの主権を完全に否定するものだ!


主権を握ったまま飢え死にするか、管理を受け入れて生き延びるか。どちらが合理的か、まだ分からないのか?


俺の声は低く、拒絶を許さない響きを持っていた。


これは平和の歪みを修正するための、最後の調整だ。資源という名のシステムを、俺たちの手で再定義する。感情で動くのをやめ、数字に従え。


代表たちは互いに顔を見合わせ、言葉を失った。俺たちの引いた管理の線が、今、種族の壁を越えて世界を縛り上げようとしていた。


事務屋のペンが、再び白紙の書類に最初の合意事項を刻んでいく。

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