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勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生
雑務課 業務日誌総括

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第90話:雑務課

窓の外には、雲一つない穏やかな青空が広がっている。かつて大陸を焼き尽くさんとした戦火も、大地を枯らした干ばつの赤黒い警告も、今はもうどこにもない。


俺の視界にあるのは、相変わらず山のように積み上げられた書類の束だ。


「係長、隣国のインフラ整備計画の最終承認をお願いします。それから、先日の災害救助部隊の経費精算に三円の誤差がありました。再チェック済みです」


ミラの報告に、俺は小さく溜息をついてペンを走らせた。隣ではカイルが、すっかり板に付いた手つきで地方支部からの相談案件を仕分けている。


「勇者様、今日は街のパトロールですか?」


「ああ。暇すぎて、子供たちに剣の振りを教えるくらいしかやることがなくてな。平和すぎて商売あがったりだ」


勇者が笑いながら部屋を出ていく。かつて世界を救った伝説の男が、今や雑務課の最強の用心棒兼平和の象徴として、この退屈な日常を守っている。


俺はふと手を止め、窓の外の平和な空を見上げた。


かつての俺は、剣を振るい、華々しく魔王を倒す英雄に憧れていた。だが、俺の手にあるのは重い剣ではなく、一本の事務用ペンだ。


「勇者にはなれなかったけど」


誰に聞かせるでもなく、俺は独り言を漏らした。


「まあ、世界最強の部署にはなったらしい」


俺たちがペン一本で予算を削り、規約という鎖で軍隊を縛り、物流という血管を整えたことで、この世界から戦争という名の巨大な不備は消え去った。


今や、大陸の王たちでさえ俺たちの承認なしには一歩も動けない。不適合者の掃き溜めと呼ばれたこの部屋が、名実ともに世界を管理する中枢となったのだ。


「係長、独り言を言っている暇があったら、この決済をお願いします。次の会議まであと五分です」


サニアに催促され、俺は苦笑しながら書類の海に再び潜った。


カリカリ、とペンの音が静かに、しかし力強く部屋に響く。


英雄の伝説は終わった。これからは、終わりのない事務作業がこの平和を繋ぎ止めていく。


俺は今日も、一円の誤差も、一文字の誤字も許さない。それが、俺たちが手に入れた最強の証なのだから。

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