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勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生


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9/12

第9話:嫌われ者の数字

成功は時として、魔物よりも厄介な敵を引き寄せる。

地下の雑務課に、場違いな香水の匂いが漂った。現れたのは宮廷貴族ヴァルム。王国の予算を握る財務官の一人だ。


「雑務課の分際で、騎士団の運用にまで口を出しているそうだな。これは明らかな越権行為だ」


ヴァルムは絹のハンカチで鼻を覆い、積み上がった書類を忌々しげに睨みつける。彼らにとって、騎士は王の権威を示す華やかなチェスの駒だ。それを裏方の「事務員」が動かすなど、伝統への冒涜に等しい。


俺は黙って、一冊の報告書を差し出した。


「越権ではなく、最適化の結果です。こちらの数値をご確認ください」


ヴァルムが渋々受け取った紙には、彼がこれまで見たこともないような奇妙な羅列があった。


過去三ヶ月の統計比較


項目以前(平均)雑務課介入後

遠征時の死亡率15.2パーセント0.8パーセント

物資の配送遅延42パーセント2.3パーセント

兵士一人当たりの維持コスト銀貨50枚銀貨32枚


「……なんだ、この数字の羅列は。不愉快な落書きだな」


ヴァルムは顔をしかめた。この世界には「武勇伝」や「叙事詩」はあっても、戦果を客観的に測定する「統計」という概念が存在しない。彼にとって、兵士が死ぬのは「運」か「忠誠心の欠如」であり、コストが下がるのは「手抜き」でしかないのだ。


「死亡率が下がったということは、それだけ騎士が軟弱になったということではないのか? 戦とは血を流してこそ……」


「違います。死ぬ必要のない局面でのロスを削っただけです。その銀貨18枚分の浮いた予算で、新しい防具が二つ買える。どちらが王国の利益になるかは明白です」


「黙れ! 詭弁を弄するな! 私はこのような得体の知れない紙切れではなく、伝統に基づいた報告を求めているのだ!」


ヴァルムは報告書を床に叩きつけた。彼のような人間にとって、理解できない正論は攻撃と同じだ。


だが、部屋の入り口には、いつの間にか数人の騎士たちが立っていた。

先日の遠征から無傷で帰還した者たちだ。彼らは、ヴァルムが踏みつけた報告書を、血眼になって拾い上げた。


「……ヴァルム様。俺たちにとって、この数字は『生きて帰れる理由』なんです」


一人の兵士が、静かだが重みのある声で言った。

ヴァルムは彼らの放つ圧倒的な「現場の熱」に気圧され、毒づきながら立ち去った。


貴族には拒絶された。だが、実際に命を預ける者たちは、もう誰が自分たちを救っているのかを理解している。


俺は拾い上げられた報告書の埃を払い、再び机に置いた。

数字は嘘をつかない。そして、一度始まった変革は、誰にも止めることはできない。

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