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勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生
雑務課 業務日誌総括

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第89話:世界の評価

王都のカフェや、遠く離れた国境沿いの宿場町。今、大陸のいたる場所で同じ言葉が囁かれている。


「雑務課がある限り戦争は起きない」


かつては軍部から追い出されたはみ出し者の集まりだと冷笑されていた俺たちは、いつの間にか平和を担保する最後の砦として神格化され始めていた。


執務室に届けられた各国の新聞や報告書には、俺たちの組織を称える言葉が並んでいる。中には「事務の聖者」だの「平和の計算機」だの、身の痒くなるような二つ名まで躍っていた。


「係長、これを見てください。民間の支持率が九割を超えました。今や、我々が不備を指摘するだけで、一国の内閣が総辞職しかねない影響力です」


サニアが、少し困惑したような表情で分厚い世論調査の結果を差し出してきた。


「……買い被りすぎだ。俺たちはただ、帳簿の数字を合わせているだけだっていうのに」


俺は溜息をつきながら、山積みの感謝状を脇に除けた。


「でも、それこそが皆の安心に繋がっているんですよ。誰かが正しく数字を管理し、不公平を正してくれる。その事務的な公平さこそが、今の世界が一番求めていた救いだったんです」


カイルが誇らしげに胸を張る。その隣で、ミラが淡々と付け加えた。


「評価が高まるのは実務上好ましいことですが、過度な期待は予測不可能な不備を生みます。万能だと思われることで、本来地元の役所で解決すべき問題までここに持ち込まれるリスクが増大しています」


「全くだ。神様じゃないんだ、二十四時間すべての苦情を捌けるわけがない」


俺はペンを回しながら、窓の外に広がる穏やかな街並みを見つめた。


「雑務課がある限り戦争は起きない……か。そんな大層なものじゃない。戦争をするための予算を俺たちが通さず、補給路を法令違反で封鎖し、武器の在庫を不備として没収し続けているだけだ」


俺がそう言うと、部屋の隅で剣の手入れをしていた勇者が、静かに口を開いた。


「それが最強の抑止力なんだよ。お前らが数字の海で目を光らせている限り、誰も馬鹿げた赤字を出してまで剣を抜こうとは思わない。平和ってのは、お前らが守っているその『退屈な日常』のことなんだ」


俺は皮肉な笑みを浮かべ、再び書類に目を落とした。


「なら、この退屈を維持するために、次の収支報告書のデバッグ作業に入るとするか。世界を救うよりも、この一行の不備を直す方が、今の俺には重要だからな」


街の喧騒は、今日も平穏そのものだった。

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