第84話:勇者部隊
情報網、物流、そして法。雑務課が整備した大陸のインフラを最大限に活用し、最も過酷な現場へと投入される実働部隊がある。
かつて世界を救った男が率いる「広域災害救助部隊」だ。
執務室のモニターには、土砂崩れで孤立した辺境の村に、勇者の旗を掲げた魔導車両が到着する映像がリアルタイムで映し出されていた。
「係長、救助部隊が現地に到着しました。サニアさんの調整により、隣国からの救助ルートは既に確保済みです。物流網を優先使用し、医療物資の到着まであと三十分。トウマさんの計算通り、誤差は一分以内です」
ミラの報告を聞きながら、俺は端末の承認ボタンを押した。
「いい動きだ。かつては国境という名の壁に阻まれ、数週間かかっていた救助が、今や数時間で完了する」
画面の中では、勇者が巨大な瓦礫を軽々と持ち上げ、閉じ込められていた村人を救い出していた。かつて魔王を討つために振るわれたその剛腕は、今や崩れかけた日常を支えるための、最も信頼できる「道具」として機能している。
「勇者様……かっこいいな。やっぱり、俺が憧れた姿そのものだ」
隣でカイルが目を輝かせている。俺はそんな青年の肩を叩き、現実を引き戻した。
「憧れるのは勝手だが、彼を動かしているのはお前たちが打ち込んだ、たった一行の出動命令書だ。彼が現場で剣を振るう一瞬のために、俺たちは何千枚もの書類を処理し、各国の利害を調整している。現場の英雄を支えているのは、この部屋の事務作業だということを忘れるな」
「……はい。でも、あの人の背中を見ると、この単調な入力作業にも意味があるんだって、強く思えます」
カイルは再びキーボードに向き直り、猛然と指を動かし始めた。
勇者の部隊が大陸中を巡り、災害や事故の不備を物理的に修正していく。その活動が広まるほど、人々にとって「勇者」は遠い伝説の存在ではなく、困った時に必ず駆けつけてくれる、極めて高性能な「公共サービス」へと変わっていった。
「平和を維持するシステムの実効性を、彼がその身で証明しているわけだ。事務屋と勇者。案外、相性のいい組み合わせだったのかもしれないな」
俺は遠く離れた戦地ならぬ「復興現場」で戦う仲間の無事を祈りつつ、次なる不備の報告書に目を向けた。




