第80話:雑務課支部
大陸各地から、一つの報告が相次いで届くようになった。
それは軍隊の増強でも、新兵器の開発でもない。各国に「戦後調整局・雑務課支部」が設置されたという通知だ。
かつての敵国も、中立を貫いていた小国も、俺たちの手法を模倣し始めた。派手な英雄を置く代わりに、机と帳簿を備えた小さな部屋を用意し、不備を修正する事務屋を配属させている。
サニアが世界地図に、新しく開設された支部の地点をピンで刺していく。
「係長、これで合計三十箇所の支部が稼働を始めました。どこも最初は、何でも屋だと馬鹿にされていたようですが、今ではどこも地域で一番頼られる窓口になっているそうです」
俺は手元の各支部からの運営状況報告書に目を通した。
「いい傾向だ。中央ですべてを管理するのは限界があるからな。各現場で不備を即座に処理できれば、それが大きな紛争に発展するリスクは劇的に下がる」
カイルが、不思議そうに地図を眺めていた。
「世界中が、俺たちのオフィスみたいになっていくんですね。なんだか不思議な気分です。あっちでも誰かが、泣きながら計算ミスと戦っているんでしょうか」
「おそらくそうなっているだろう。平和を維持する仕組みは、華やかさとは無縁の地味な作業の積み重ねだ。それが世界中に広まったということは、誰もがその、コスト、を理解し始めたということだ」
勇者が窓際で、満足げに鼻を鳴らした。
「英雄が一人で世界を救う時代は終わったな。これからは、無数の名もなき事務屋たちが、それぞれの持ち場で平和を繋ぎ止めていくわけだ」
俺はペンを置き、背伸びをした。
「仕事が減るかと思ったが、各支部からの相談件数が跳ね上がっている。不備の連鎖を止めるための調整は、これからが本番だな」
かつては厄介者の掃き溜めだった場所が、今や世界の安定を支える神経網へと変わりつつあった。
俺は新しい報告書を手に取り、平和という名の終わりのない事務作業を再開した。




