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勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生


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第8話:戦わない指揮

次なる輸送任務。

護衛の騎士たちは前回の惨状を思い出し、一様に顔をこわばらせていた。

そんな彼らの前に、俺は数枚の図面と指示書を広げた。


「これから三つのルールを徹底してもらう。一つ、退却の優先順位。二つ、負傷者の搬送担当者の固定。三つ、合図の統一だ」


騎士の一人が不服そうに声を上げる。

「また紙切れか? 俺たちは戦いに来たんだ。逃げる順番なんて決めてどうする」


「戦うためだよ。誰がいつ下がるか決まっていないから、前回は味方同士でぶつかった。いいか、この合図が出たら、右翼は三歩下がる。空いたスペースに搬送役が入り、負傷者を下げる。他の奴らは絶対に足を止めるな」


俺が提示したのは、戦術というよりは工程管理に近い。

誰が何をするか。その役割をパズルを組むように最適化した。


そして、前回と同じ森の街道。

茂みが揺れ、魔物の群れが飛び出してきた。


「敵襲! 第1陣形、維持!」

レオンの号令が飛ぶ。

魔物の爪が騎士の盾を弾き、火花が散る。前回と同じ、激烈な殺し合いだ。


だが、決定的な違いがあった。

一人の騎士が足を負傷し、倒れ込む。

いつもなら、周囲の数人が助けようと足を止め、そこから陣形が崩れる。

しかし今回は、あらかじめ決めていた搬送担当の二人が、流れるような動作で彼を担ぎ上げた。

残りの騎士たちは、仲間の救助を信じて、目の前の敵に集中し続けた。


「青の合図! 左翼、予定位置まで後退!」

俺が振った旗を見て、左側の騎士たちが整然と距離を取る。

魔物は獲物を逃したと錯覚し、前のめりになる。

そこへ、十分な距離を保っていた魔術師の援護射撃が、寸分の狂いなく突き刺さった。


戦闘終了。

静寂が戻った街道で、騎士たちは自分たちの手を見つめていた。


「……死んでない。誰も、死んでないのか?」


一人の騎士が呟く。

鎧はボロボロで、体力も限界に近い。戦いの激しさは間違いなく前回以上だった。

なのに、今回は一人も欠けていない。


「なんでだ……。なんで今回は、一度も崩れなかったんだ?」


レオンが不思議そうに俺を振り返る。

俺は手帳を閉じ、冷静に答えた。


「個人の勇気に依存するのをやめたからだ。誰が何をすべきか。それを仕組みが決めていれば、恐怖の中でも組織は動ける」


これが、俺の戦い方だ。

剣を振るうよりも遥かに確実に、勝利を、そして日常を掴み取るための方法。


雑務課の指揮が、初めて戦場の常識を塗り替えた瞬間だった。

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