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勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生
雑務課 業務日誌総括

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第78話:教育

机の向こうで、カイルが頭を抱えて唸っている。山のように積まれた復興資材の分配表を前に、彼のペンは一向に進む気配がない。


「係長、もう限界です……。魔物相手ならどれだけ数が多くても斬り伏せられる自信がありますが、この数字の羅列は、どれだけ睨んでも減ってくれません」


カイルは力なく机に突っ伏した。彼の背負った大剣が、椅子の背もたれに当たって虚しい音を立てる。


俺は自分の書類から目を離さず、静かに口を開いた。


「カイル、その三枚目の書類にある、補給路の維持費の計算を見せてみろ」


「えっ……あ、はい。これです。少し計算が合わなくて、適当に四捨五入してしまいました」


俺は差し出された紙を一瞥し、ペンで一点を指した。


「ここだ。お前が端数として切り捨てたこの数字は、金額に直せば銀貨十枚分になる。これがあれば、北方の開拓地で一家族が冬を越すための薪が買える。お前の『適当』な処理一つで、誰かの凍死が決まるんだ」


カイルが息を呑み、背筋を正した。


「英雄の仕事は明快だ。目の前の敵を倒し、奪われたものを取り返す。結果はすぐに出るし、誰の目にも分かりやすい」


俺はカイルの目を見て、言葉を継いだ。


「だが、事務屋の仕事には終わりがない。一つの不備を直しても、また新しい不備が生まれる。誰からも称賛されず、感謝もされず、ただ黙々と、世界という巨大なシステムの摩擦を取り除き続ける。英雄より難しい仕事だ」


カイルは自分の震える手を見つめた。剣を握るためのその手は、今、一枚の書類の重みに耐えかねているようだった。


「倒すべき悪がいない世界で、何千万人もの日常を守り続ける。それがどれほど緻密で、孤独で、責任の重い戦いか、少しは理解できたか」


「……はい。俺、英雄になりたいなんて、簡単に言いすぎていました。この一枚の紙の向こうに、生きてる人間がいるんですね」


カイルは再びペンを握り直した。今度は先ほどよりもずっと慎重に、一文字ずつ数字を書き込み始める。


「いい心がけだ。その計算が終わったら、次は隣の区画の税率調整だ。英雄志望の体力、期待しているぞ」


「うっ……頑張ります……!」


窓の外では、勇者が平和な街並みを静かに見守っている。俺たちはその平和を維持するための、泥臭い戦いを続けていた。

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