第69話:数字の違和感
戦後処理の総仕上げとして、大陸全土の戦争被害統計をまとめる作業が大詰めを迎えていた。膨大な被害報告書、補償申請、そして戦死者リスト。これらを一つの巨大なデータベースに統合し、不備のない「戦後の正解」を導き出すのが雑務課の任務である。
主人公は、深夜の執務室でモニターに映し出される集計グラフを眺めていた。だが、ある一点で指が止まる。
「ミラ、この北東部エリアの人口動態データ、整合性が取れていないぞ」
隣で計算機を叩いていたミラが、即座に画面を覗き込んだ。
「……確かに。開拓村の登録番号がいくつか欠番になっています。前後の村の被害状況から推測される損害率と、この空白域の食い違いが大きすぎますね」
統計上、そこには確かに「人が住んでいた痕跡」がある。戦前の納税記録には村の名前があり、収穫量の記載もある。しかし、戦後の調査書には「該当なし」という無機質な四文字が並んでいるだけだった。
「戦火で消滅したなら『全焼』や『壊滅』と記されるはずだ。だが、この記録は違う。村そのものが、最初から存在しなかったかのように名簿から抹消されている」
「単なる事務的な記載漏れでしょうか」
ミラが問うが、主人公は首を横に振った。
「いや、これは意図的な削除だ。欠落しているのは、かつて王国軍の極秘補給拠点があったとされる座標に重なっている。数字は嘘をつかないが、嘘をつくために数字を消す人間はいる」
主人公は、手元の端末に調査命令を打ち込んだ。
「記録にないということは、そこにはまだ『終わっていない戦争』が隠されている可能性がある。リクを呼べ。現地に調査隊を派遣する。事務上の不備を放置したまま、戦後を終わらせるわけにはいかないからな」
管理された平和の裏側に、統計という名の光が届かない深い闇が口を開けていた。




