第6話:属人化という病
騎士団の中でも精鋭と謳われた第三部隊が、一晩にして機能不全に陥った。
理由は、部隊の要であったベテラン兵、バートの戦死だった。
彼は「戦場の何でも屋」と呼ばれ、野営の設営から武具の修理、索敵のタイミングまで、すべてを一人で取り仕切っていた。
彼がいなくなった途端、部隊はどこにテントを張ればいいかさえ分からず、立ち往生したのだ。
「バートさんなら分かったのに……」
「あいつにしかできない『勘』だったんだ」
うなだれる兵士たちの前に、俺は数枚の紙束を持って現れた。
そこには、バートが生前行っていた「勘と経験」が、無機質な手順として書き出されていた。
「バートさんの行動をすべて分解した。これは、野営地選定の手順書だ。地面の湿度を確認し、風上を確認する。この三つの条件に合致する場所を探せ。誰でもできるはずだ」
兵士たちは半信半疑でその紙を受け取った。
これまでは「長年の経験」が必要だと言われてきた作業。
だが、俺が書いたマニュアル通りに動くと、驚くほどスムーズに、しかもバートがいた頃と遜色ない精度で陣地が組み上がっていく。
「……できた。俺たちだけでも、バートさんの時と同じスピードで設営ができたぞ」
新兵の一人が声を上げる。
周囲にいた他の部隊の兵士たちが、ざわつき始めた。
「バートにしかできないはずの『神業』を、ただの紙切れが再現したのか?」
「つまり、あの紙があれば……俺たちでも精鋭部隊になれるっていうのか?」
彼らが目撃したのは、個人の才能に依存する「属人化」という病に対する、明確な特効薬だった。
「特別な誰かはいらない。正しい手順さえあれば、誰もが最強になれる」
俺がそう告げると、騎士たちの目に宿る色が「諦め」から「確信」へと変わった。
雑務課が提供しているのは物資だけではない。
「誰でも勝てる」という、組織としての再現性だった。




