第57話:帰還兵の街
終戦から数ヶ月が経ち、王都の路地裏には行き場を失った兵士たちが溢れかえっていた。
彼らは故郷を焼かれ、家族を失い、戦うこと以外に生きる術を持たない。仕事もなく、空腹と苛立ちを抱えた軍人たちの存在は、回復し始めた都市の治安に暗い影を落としていた。
リクは執務室の窓から、路上で小競り合いを始める男たちを冷めた目で見下ろしていた。
「係長、あの連中を放置するのは管理上の致命的なミスだ。彼らはまだ、自分が戦場の駒ではないという事実を受け入れていない」
主人公は書類から目を上げずに答えた。
「予算は確保してある。君の得意分野だろう、リク。彼らを再雇用しろ」
「分かっている。壊すのが専門の連中に、守る側の理屈を叩き込んでやるよ」
リクは単身で、兵士たちが集まる酒場へと向かった。そこでは、王国の元重装歩兵と、魔王軍の元工作兵が今にも殴り合わんばかりに睨み合っていた。
「おい、そこまでだ。無駄な体力があるなら、俺が買ってやる」
リクの声に、大柄な兵士が振り返る。
「なんだ、役人の回し者か。俺たちは英雄として扱われるはずだったんだ。今さら何の用だ」
リクは冷笑しながら、机の上に一束の契約書を叩きつけた。
「英雄の席はもう満席だ。だが、復興警備隊の隊員の枠なら腐るほどある。仕事内容は街のパトロール、復興資材の警備、そして市民の苦情処理。給与は三食昼寝付き、現物支給だ」
魔族の工作兵が不快そうに牙を剥く。
「ふん、人間と組めというのか。冗談じゃない、俺の仲間を殺した連中だぞ」
「それはこっちのセリフだ。魔族野郎と同じ飯が食えるか!」
王国の兵士も激昂する。
リクは動じず、二人を交互に指差した。
「憎しみで腹は膨れないぞ。ここに並んでいるのは、ただの『失業者』だ。過去の所属なんて帳簿の上では既に抹消されている。お前たちが同じ隊に所属し、互いの背中を守ることが、この街で最も効率的な治安維持の方法なんだ」
兵士たちは沈黙した。リクが提示した条件は、誇りよりも生存を優先せざるを得ないほどに現実的だった。
数日後、街の通りには新しい制服を纏った混成部隊が並んでいた。
「おい、魔族。足並みが乱れているぞ。規律を守れ」
「うるさい、人間。お前こそ資材の搬入経路を間違えるな」
毒づき合いながらも、彼らは瓦礫の撤去を監視し、路地の安全を確保するために歩き始める。




