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勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生
雑務課 業務日誌総括

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第53話:最初の外交案件

平和への歩みは、華やかなパレードではなく、一通の重苦しい書簡から始まった。

魔王軍共存派の参謀から届いたその書簡は、これまでの停戦調整とは一線を画す、具体的で切実な「外交案件」だった。


議題:戦災難民の王国領内への一時移住、および居住許可の申請


かつての激戦地で住処を失った魔族の民たちが、飢えと寒さを凌ぐために、比較的被害の少なかった王国側の国境付近へ移動したいという内容だ。


王都の過剰反応

この書簡が統括本部に回った瞬間、上層部は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。


「移住だと? 侵略の間違いではないのか!」

「武装した兵士が紛れ込んでいたらどうする。これはトロイの木馬だ」


会議室には、平和を口にしながらも、依然として「魔族=脅威」という古い帳簿から抜け出せない役人たちの怒号が飛び交う。彼らにとって、魔族は倒すべきターゲットであり、管理すべき「隣人」ではないのだ。


「係長、どうします? 上は門前払いにしろと息巻いていますが」


リクが呆れたように、紛糾する会議室のドアを見やりながら尋ねる。俺は山積みの移住申請リストを指先で弾いた。


「感情論で議論しても時間の無駄だ。我々に必要なのは、恐怖ではなく実数だ。……現地調査に行くぞ」


境界線の真実

俺たちは、王国と魔王軍の領地を分かつ、かつての緩衝地帯へと向かった。

そこは、数ヶ月前まで魔法の爆炎と剣戟が絶えなかった地獄の跡地だ。


国境の砦から望むその光景は、王都の役人たちが想像していた「侵略の準備」とは程遠いものだった。


「……あれが、軍勢か?」


リクが呟く。

街道を埋め尽くしていたのは、整列した兵士ではない。

ボロボロの布を纏い、痩せ細った子供の手を引く親たち。老いた体を支え合いながら、力なく足を引きずる老人たち。


そこには、武器の代わりに錆びた鍋や、使い古された農具を背負った民衆の列が、延々と続いていた。


武器なき民

俺は馬を降り、列の先頭へと歩み寄った。

彼らは俺たちの姿を見ると、怯えたように身を寄せ合う。かつて「勇者」や「王国軍」に怯えていたのと、同じ目だ。


俺の視界の端には、道端に打ち捨てられた大量の剣や槍が積み上がっていた。

彼らは王国に入るための条件として、自らの意志で、唯一の身を守る術を捨ててきたのだ。


「ミラ、この人数を収容できるだけの休耕地と、配給可能な食糧の余剰分を再計算しろ。リク、彼らの健康状態を確認し、防疫上のリスクをリストアップだ」


「係長、本気で受け入れるつもりですか?」


サニアが少し驚いたように聞き返す。


「これは慈善事業じゃない。行き場を失った数千の難民が国境で野垂れ死に、そこから疫病や怨嗟が生まれることの方が、管理上のリスクが遥かに高いんだ」


俺は、泥にまみれた難民の子供が握りしめている、小さな石ころを見つめた。


「彼らはもはや『敵』じゃない。適切に管理され、定住させるべき『新しい労働力』だ。事務的に処理すれば、それだけの話だ」


俺は新しい報告書の冒頭に、「難民受け入れに伴う経済効果と治安維持コストの比較」と書き込んだ。

王都の臆病な役人たちを説得するのに必要なのは、人道的な訴えではなく、損得の勘定書だ。

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