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勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生
雑務課 業務日誌総括

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第50話:書類の終わり

かつての喧騒が嘘のように静まり返った小さな部屋。俺は、幾度も書き直し、磨き上げてきた一枚の書類を、傷だらけの木机の上に置いた。


終戦処理手順書(最終案)


それは英雄の武勇伝でも、神の啓示でもない。ただの、戦後における賠償、領土の区分け、兵士の動員解除、そして物流の再編を網羅した、極めて現実的で冷徹な「業務マニュアル」だった。


署名という名の幕引き

「……これを書けば、すべてが終わるのか」


背後から声がした。振り返ると、そこには剣を帯びていない勇者が立っていた。彼の鎧はくすみ、かつての輝きは失われていたが、その表情は以前よりもずっと人間らしく見えた。


「これを書けば、戦う理由コストが成立しなくなる。戦い続けることが純粋な赤字になり、平和を維持することが最も合理的な選択肢になるように、数字を組み替えたんだ」


俺の答えを聞き、勇者はしばらくその書類をじっと見つめていた。そして、迷いのない手つきで、一兵卒の署名欄に自らの名を刻んだ。


その後、この書類は人知れず各地を回った。

利権を奪われ、渋々ながらも現状維持を選んだ王国将軍の印。

内紛を鎮め、種族の存続を第一に考えた魔王軍参謀の印。


いくつもの重い印章が重ねられ、最後の一枚が閉じられたとき。

世界を百年以上にわたって縛り続けてきた「戦争」という名の巨大なプロジェクトは、ついに事務的な決算を終えた。


静寂の空

俺は窓の外を眺めた。

空を切り裂いていた魔力の奔流は消え、雲ひとつない青空が広がっている。遠くで爆ぜる音も、誰かの悲鳴も聞こえない。


「……静かだな」


サニアが隣に立ち、穏やかな顔で呟いた。リクも、ミラの影も、今はただその静寂を噛み締めているようだった。

英雄が世界を救ったのではない。俺たちが、世界を「終わらせる」ための手続きを完了させたのだ。


仕事は終わらない

だが、俺は知っている。

ひとつの巨大なプロジェクトが終われば、その後に続くのは膨大な「事後処理」だということを。


ふと視線を机の隅に戻すと、そこにはまだ数枚の未処理の報告書が残されていた。

復興支援物資の未着報告。

占領地における暫定自治組織の設立申請。

そして、元兵士たちの再就職支援の要望。


俺は小さく息を吐き、再びペンを手に取った。


「……まだ、仕事はあるらしい」


平和とは、何も起きない奇跡のことではない。

誰かが毎日、地道に不備を修正し、書類を処理し続けることで維持される「管理された日常」のことだ。


静かな部屋に、再びペンの走る音が響き始めた。

事務屋サラリーマンの戦場は、平和な空の下でも、決して終わることはない。

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