表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生
雑務課 業務日誌総括

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/148

第48話:勇者の疑問

軍の宿舎から離れた、街外れの古びた宿。窓を叩く夜風は、戦場の喧騒を知らないかのように穏やかだった。


扉を叩く重い音が響く。現れたのは、煌びやかな鎧を脱ぎ捨て、旅人のような外套を纏った勇者だった。彼の顔には、かつての無敵の自信ではなく、正体の知れない空虚さが滲んでいた。


勝てば終わるという幻想

「……一つ、聞かせてくれ」


勇者は椅子にも座らず、部屋の隅に置かれた俺の荷物を見つめながら切り出した。


「俺は、魔王を倒せば、強い敵をすべて斬り伏せれば、この世界は救われると教わってきた。勝てば、戦争は終わる。そう信じて剣を振るってきた」


彼は震える拳を握りしめ、絞り出すような声で続けた。


「だが、お前たちの書類が回り始めてから、何かがおかしい。俺が勝てば勝つほど、現場が混乱し、お前たちが顔をしかめる。……戦争ってのは、勝てば終わるもんじゃないのか?」


俺は手元のメモを置き、真っ直ぐに彼を見つめた。


勝利と終戦の相違

「勝利は、単なる戦闘の結末だ。特定の地点で、特定の相手とのパワーバランスが逆転したというだけの事実に過ぎない」


俺の声は、夜の静寂に溶け込むほど淡々としていた。


「だが、戦争の終わり(終戦)は違う。それは膨大な利害関係を精算し、システムとしての暴力を停止させ、全員に『降りる理由』を与える事務的な合意だ」


俺は机の上に広げた、ボロボロになった地名リストを指差した。


「勝利は戦闘の終わりだ。だが、それは戦争の終わりじゃない。勝つことと、終わらせることは、まったく別の業務なんだよ」


英雄が削ったもの

勇者は俺の言葉を咀嚼するように、長い沈黙に沈んだ。


「……俺は、ずっと『敵を殺すこと』に特化した道具だったんだな。それ以外の、後始末の仕方も、平和への戻り方も知らないまま」


彼は自らの手のひらを、まるで初めて見る異物のように見つめた。そこには数え切れないほどの勝利が刻まれている。だが、その勝利が「誰かの日常」を繋ぎ止めたという実感は、今の彼にはなかった。


「……俺は、今まで何を終わらせてきたんだろうな」


その呟きは、誰に宛てたものでもなかった。

最強を誇った男が、自らの成してきた「破壊」の積み重ねを、初めて一つの「不備」として認識した瞬間だった。


俺は彼に何も言わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ