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勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生
雑務課 業務日誌総括

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第42話:勝ち続ける男

「暫定終戦管理担当」としての最初の仕事は、前線で最も効率的に、かつ無秩序に暴れ回る「勇者部隊」へ一通の通達を送ることだった。


通達の内容は極めて事務的だ。

「勇者部隊における戦闘後報告書の提出義務化について」


これまでは「英雄の一撃」で済まされていたすべての武勇に対し、詳細な日時、地点、対象の種別、および被害状況の記載を求めたのである。


案の定、執務室の扉は乱暴に蹴破られた。


英雄の不満

「おい、どういうつもりだ! 俺は世界を救うために戦ってるんだ。紙遊びに付き合ってる暇なんてない!」


現れたのは、黄金の鎧に身を包んだ「勝利を約束された勇者」だった。彼の背後には、神々しいまでの魔力の残光が漂っている。戦場では無敵を誇り、これまで一度の敗北も知らずに勝ち続けてきた男だ。


俺は山積みの書類から目を上げず、淡々と答えた。


「だからこそ、報告が必要なんです。あなたが戦い、勝っているからこそ、こちらの帳簿が合わなくなっている」


「何だと? 俺が勝てば平和に近づく。それのどこに報告の必要があるんだ!」


勇者は机を叩き、俺を睨みつける。その瞳には、純粋なまでの正義感と、それゆえの傲慢さが宿っていた。


記録に存在しない敵

俺は一冊の分厚い帳簿を彼の前に差し出した。そこには、勇者が「討伐した」と主張する敵のリストと、我々雑務課が管理している「魔王軍現況表」が突き合わされている。


「あなたが昨日、北方の街道で倒したという『上位魔族』ですが」


俺はリストの一行を指差した。


「記録上、その個体は存在しません。我々の観測では、その地域にいたのは既に生成派を見限って共存派へ寝返ろうとしていた『連絡員』です。彼らは非戦闘員として管理され、我々の交渉ルートに含まれていました」


「……あ? いや、あいつは禍々しいオーラを放っていたぞ。だから俺が斬った」


勇者の声に、わずかな動揺が混じる。


「あなたの言う『禍々しいオーラ』のせいで、我々が数ヶ月かけて構築した共存派との通信網が一つ消滅しました。他にも、あなたが『壊滅させた拠点』の多くが、既に我々の工作によって内部崩壊を始めていた場所です。あなたは、死にかけのシステムを叩き壊して、その『死体』をさらに粉砕しているに過ぎない」


壊れゆく帳簿

勇者は絶句した。彼は「勝ち続けている」つもりだった。だが、彼の剣が振るわれるたびに、俺たちが必死に繋ぎ止めていた「終わらせるための糸口」が断ち切られていたのだ。


「戦闘には勝っている。だが、戦争の帳簿は壊れ始めているんだ」


俺は静かに椅子から立ち上がり、勇者の目を見据えた。


「あなたが強すぎるせいで、戦場のデータが欠落し続けている。あなたが誰を倒し、何を壊したのかが分からない限り、我々は戦争をクローズすることができない。勝てば勝つほど、平和は遠のく。これが、今のあなたの戦いがもたらしている現実です」


勇者は自分の拳を見つめた。これまで「正義」と信じて疑わなかったその力が、ただ事務的な不備を積み上げ、世界を収拾不能な混乱へ叩き込んでいる。


彼は初めて、自分が何を残しているのか、その「勝利の代償」について考え込み始めた。

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