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勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生
雑務課 業務日誌総括

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第40話:終わらせるための仕事

机の上には、もはや整理することすら追いつかないほどの被害報告書が山を成していた。だが、ペンを走らせる俺の目には、ある「変化」が明確に映っていた。


帳簿の中から、かつて戦場を象徴していた勇ましい名称が、次々と消え始めているのだ。


「第七侵攻線」: 戦線の維持不能により、項目自体が消滅。


「魔獣供給拠点」: 座標ごと蒸発。もはや管理対象として存在しない。


「主要討伐対象」: 生死不明、あるいは確認不能。


戦争を「管理」するための項目そのものが、ボロボロと削り取られていく。それは勝利の結果ではない。この戦争というシステムが、自らの重みに耐えきれず、根底から瓦解し始めている証拠だった。


崩壊と、終戦の違い

「……なあ係長。これ、もう俺たちが手を出すまでもなく、放っといても勝手に終わるんじゃないか?」


リクが窓の外、赤い光に染まった空を見上げながら呟いた。

魔王軍の内紛、王国軍の疲弊。すべてが限界を超え、巨大な暴力の渦がただ消滅へ向かっているように見える。


「違う。放っておいたら、“壊れたまま固定される”だけだ」


俺はペンを止め、リクを真っ直ぐに見返した。


「火が消えた後に残るのは、瓦礫と、行き場を失った暴力の火種だ。誰が勝ったかもわからず、誰も責任を取らない。そんな終わらせ方をしたら、数年後にはまた同じ不備が繰り返されることになる」


「終戦じゃなくて、崩壊……ね。それじゃあ、この土地に暮らす人たちは救われないわ」


サニアが、消しゴムのカスを払いながら静かに付け加えた。

俺たちは、ただ戦争が止まるのを待つのではない。戦争という最悪のプロジェクトを、「適切にクローズ」させなければならないのだ。


終わらない「仕事」の正体

俺は再び書類に目を落としながら、かつての世界の記憶を重ねていた。


なぜ、あの会議は終わらなかったのか。

なぜ、あの責任の所在不明なプロジェクトは、赤字を垂れ流しながら続けられたのか。


憎しみがあったからじゃない。そこに熱い志があったからでもない。

ただ――「誰も止め方を知らなかった」からだ。


一度走り出したシステムを止めるには、始める時以上のエネルギーと、冷徹な手続きが必要になる。この戦争も同じだ。正義だの悪だの、そんな高尚な理由で動いている段階はもうとうに過ぎている。

ただ、やめ方が分からなくなっているだけ。死に損なった巨大な怪物が、止まり方を知らずにのたうち回っているだけなんだ。


最後の仕事

俺は新しい羊皮紙を取り出し、その最上部に力強くペンを走らせた。

そこには、王国軍のどの規定にもない、魔王軍とのどの交渉録にも存在しないタイトルが記された。


「終戦処理手順書(案)」


上からの命令ではない。誰に頼まれたわけでもない。

だが、この無秩序な地獄を「日常」へと引き戻すために必要な、最も泥臭く、最も重要な実務の集大成。


「係長、それは?」


「俺たちの最後の仕事だ。……戦後処理の予算、捕虜の処遇、汚染地域の復旧、そして両軍の解散手続き。これらすべてを規定し、誰にでも押せる『決済印』の形にまで落とし込む」


サニアとリクが顔を見合わせ、それから覚悟を決めたように頷いた。


英雄のいない結末

窓の外では、今も巨大な魔術が暴発し、空を裂いている。轟音が大地を揺らし、英雄たちが最後の輝きを放とうと剣を振るっている。


だが、この狭い執務室の中には、静謐なインクの音だけが響いていた。


「戦争を止めるっていうのはな、最後に必要なのは、英雄じゃない。事務手続きだ」


俺のペンが、次の項目を刻み込む。

それは奇跡を必要としない、だが誰にも成し得なかった、世界の「シャットダウン」への確かな足音だった。

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