第4話:紙切れ一枚の革命
雑務課の地下室に、新たな「武器」が誕生した。
それは魔法の杖でも伝説の剣でもない。ただの四角い枠が並んだ羊皮紙だ。
そこには、三つの項目しかなかった。
必要な物資の量。
受け取りたい期日。
そして、申請責任者の署名。
「……これだけ?」
サニアが首を傾げる。
「ああ。今までは『なんとなく』で持ち出していたから、在庫が枯渇するんだ。誰がいつ、何を欲しがっているか。それをこの紙に書かせるだけでいい」
俺は完成した申請書の束を持って、騎士団長ガルドスの執務室を訪ねた。
だが、返ってきたのは怒声と、紙が引き裂かれる音だった。
「ふざけるな! 我ら騎士団は戦うのが仕事だ! 貴様のような無能が作った紙切れ一枚に、なぜ一々書き込まねばならん!」
ガルドスは俺が差し出した申請書を無造作に破り捨て、足蹴にした。
「『期日』だと? 戦況は生き物だ! 欲しい時に欲しいだけ出すのが雑務課の役目だろうが! 二度とこのような面倒を持ち込むな!」
俺は何も言わず、散らばった紙屑を拾い上げて部屋を後にした。
数日後。騎士団は大規模な魔物討伐のために遠征へと出発した。
ガルドスは豪語していた。
「補給など、今まで通り雑務課の倉庫から適当に運び出せば済むことだ!」
……だが、現実は残酷だった。
現場では弓兵が「矢が届いていない」と叫び、魔術師は「触媒の魔石が別の部隊に回された」と絶望した。
誰がどれだけ持ち出したかの記録がないため、移動中に食料が底をつき、飢えた兵士たちは連携を乱した。
結果は惨敗。
強力な魔物を前に、騎士団は戦う前に「組織」として自滅したのだ。
這々の体で城に戻ってきたガルドスは、泥と血にまみれ、怒りの矛先を探して雑務課に怒鳴り込んできた。
「おい! どういうことだ! なぜ必要な時に必要な物資が現場にない!」
地下の執務机。
俺は騒ぎ立てるガルドスの前に、静かに一枚の紙を置いた。
それは、先日彼が破り捨てたものと全く同じ形式の申請書だった。
「……何だこれは」
「申請書です。団長。何が、いつまでに、どれだけ必要なのか。それをこの紙に書いてください。そうすれば、二度とあのような無様な敗退はさせません」
俺は感情を排した声で、真っ直ぐにガルドスを見つめた。
怒りで顔を真っ赤にしていたガルドスだったが、俺の背後に並ぶ、完璧に管理され、整然と積み上げられた物資の山を見て、言葉を失った。
この世界で初めて、ペンが剣を屈服させた瞬間だった。




