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勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生


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3/12

第3話:数えるだけ

地下倉庫の澱んだ空気の中、俺はひたすらペンを動かしていた。

やっていることは単純だ。

山積みの木箱を開け、中身を確認し、数を記録する。ただそれだけ。


「……ねえ、本当にそんなことして何になるの?」


サニアが呆れたように声をかけてくる。

彼女の目には、俺がただの「無駄な作業」に没頭しているように見えているのだろう。

この世界の人間に「棚卸し」という概念はない。

物はあれば使う。なければ諦める。それがこの国の常識だった。


「サニアさん、管理の基本は現状把握だ。数え終えれば、俺たちがどれだけ『豊か』か分かる」


「豊か? 私たちは捨てられた部署なのよ? 物資なんて……」


「いや、あるよ。腐るほどにな」


数日後、俺の手元には数枚の羊皮紙にまとめられたリストが出来上がった。

結果は予想通り、いや、予想以上に酷いものだった。


保存食の在庫:騎士団1ヶ月分(ただし一部は賞味期限切れ)

予備の防具:300セット(奥の部屋に忘れ去られていた)

ポーション:500瓶(別の箱に紛れ込んで放置)


この国は物資不足に喘いでいると言われていた。

だが事実は違う。

「どこに何があるか誰も知らない」から、現場に届いていないだけだ。

リソースの配分不能。これがこの国の弱さの正体だった。


その時、倉庫の重い扉が開き、一人の兵士がふらつきながら入ってきた。

前線への補給を求めてやってきた、輤(荷車)引きの男だ。


「……あー、またここか。どうせ今日も『在庫なし』なんだろ? 団長にはなんて報告すればいいんだか……」


男は諦め顔で、力なく吐き捨てた。

いつもなら、ここでサニアが「ごめんなさい」と謝って追い返すのがいつもの流れだ。

だが、今日は違う。


俺はリストを指でなぞり、倉庫の3番目の棚を指差した。


「第4部隊の補給だな。干し肉が3袋、乾燥小麦が2袋。それと予備の靴が5足。そこに準備してある。持っていけ」


「……は?」


兵士は耳を疑ったような顔で俺を見た。

おずおずと差し出された荷車の中身を確認した男の顔が、一瞬で強張る。

そこには、約束通りの食料と、手入れされたばかりの備品が整然と並んでいた。


「な、なんだこれ……本当にいいのか? いつもは『記録がない』だの『手続きが先だ』だの言われて、水一杯すらもらえなかったのに」


「それが俺たちの仕事だ。ほら、早く行け。腹が減っては戦えないだろ」


兵士は震える手で荷車を掴むと、何度も、何度も頭を下げながら去っていった。

角を曲がる直前、彼が漏らした呟きが地下の廊下に響く。


「……嘘だろ。今回は、飯があるのか……?」


その声は、泣いているようにも聞こえた。

隣で呆然としていたサニアが、信じられないものを見る目で俺を振り返る。


「……本当に、ただ数えただけなのに。あんなに喜ばれるなんて」


「ああ。これが『組織』の力だよ。サニアさん」


勇者になれなかった男の、地味で、けれど確かな変革がここから動き出す。

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