第29話:勝ち続けても終わらない
勇者の放つ雷光が戦場を焼き払い、俺たちが整えた後方支援が軍の足を完璧に支えた。結果だけを見れば、これ以上ない大勝利だ。戦場からは異形の残骸が一つ残らず回収され、次の戦いの火種は大地の胃袋から奪い取られた。
だが、数日と経たぬうちに、前線の斥候からは「新たな敵影を確認」との報告が入る。
どれほど鮮やかに敵を討ち、どれほど無駄なく資源を管理しても、この戦争という名の巨大な歯車は、速度を落とすどころかさらに力強く回り続けていた。
拠点の天幕で、俺は数枚の報告書を突き合わせたまま沈黙していた。
そこには、倒した数と同じだけの敵が再び現れるという、帳尻の合わない計算結果が並んでいる。
「……なあ、教えてくれ。どうやったら、この地獄は終わるんだ?」
ふいに声をかけてきたのは、剣を傍らに置いたリクだった。
その瞳には、かつての精悍さはなく、出口のない迷路を彷徨うような深い疲弊が滲んでいる。
サニアも、レオンも、言葉には出さないが同じ問いを俺に投げかけていた。
「敵を倒せば終わると信じて剣を振るってきた。お前が来てからは、戦いはもっと楽になったはずだ。なのに、景色がちっとも変わらない。勝てば勝つほど、次の戦いが遠くから走ってくるような気がしてならないんだ」
リクの問いに、俺は手元の帳簿を閉じた。
その表紙に触れる指先は、冷たい。
「……戦い方を変えるだけでは、この連鎖は止められないんだ」
俺は仲間の顔を一人ずつ見つめ、静かに、けれど断固とした口調で言葉を継いだ。
「勇者の力も、俺の管理術も、今はまだこの世界の理という大きな円環の一部に組み込まれている。敵を倒すことが、巡り巡って次の戦いの理由を産み出している。……この戦争を止めるには、戦術を超えた別の手が必要だ」
「別の手……?」
「ああ。敵を物理的に排除するのではなく、彼らが戦い続けなければならない理由そのものを奪う。世界の巡りそのものを不具合として修正し、別の形へ書き換える。……俺は、英雄として勝つことよりも、事務屋としてこの戦争を終わらせることを選びたい」
合理的に、冷徹に。
だが、その根底にあるのは、繰り返される悲劇をこれ以上見過ごせないという、ひどく人間臭い憤りだった。
俺が初めて口にしたその言葉に、天幕の中を重苦しい沈黙が支配する。




