第26話:戦争は止まらない
後方支援統括本部の運営が軌道に乗ったことで、戦場の様相は一変した。
俺が整えた補給の道筋は一度の滞りもなく、最前線の兵士たちの手には常に鋭い剣と十分な食糧が握られている。
情報の伝達速度も以前とは比べものにならず、各部隊は迷うことなく、最も確実な経路で敵を討ち果たしていた。
事務方としての仕事は、文句のつけようのない成果を上げていた。
しかし、俺の机の上に積み上がる日報には、残酷な現実が記されていた。
魔物の討伐数は、以前の数倍にまで膨れ上がっている。
兵士たちが戦場に留まれる期間も伸び、一度の遠征で得られる戦果はかつてない規模に達した。
だが、それと反比例するように、命を落とす者の総数は一向に減る気配を見せない。
むしろ、戦いが長く、激しく維持されるようになったことで、犠牲者の数はじわじわと増え続けていた。
俺たちが巡りを良くすればするほど、あの大地が生み出す異形の数もまた、呼応するように増えていく。
俺が施した調整は、より多くの魔物を呼び込み、より多くの命を戦場の泥へと沈めるための油に過ぎなかったのではないか。
俺は、静まり返った執務室で、真っ白な報告書を見つめたまま立ち尽くした。
これまでは、無駄を省き、仕組みを整えれば、自ずと平和に近づくと信じていた。
だが、この世界そのものが戦争を存続させるための理を持っているのなら、俺の管理術は、その残酷な意志に手を貸しているだけのことだ。
背後に、物音を忍ばせて近づく気配があった。
サニアが俺の強張った肩を気遣うように、温かい飲み物の香りを漂わせる。
「サニア、俺はとんでもない間違いを犯しているのかもしれない。兵士を死なせないために、一番いい武器を、一番いいタイミングで届けてきた。でも、そのせいで戦場はさらに過熱し、大地はもっと多くの死骸を求めて脈動を速めているんだ」
俺は握りしめていた筆を、折れんばかりの力で机に押し当てた。
道理を求め、無駄を忌み嫌ってきた俺の心が、初めてその道理に裏切られたような感覚だった。
戦術だけで戦争は止められない。より良く敵を倒すほど、次の悲劇が早くやってくるだけだ。
……でも、それでも俺は、この無意味な連鎖を止めたいんだ。
俺の絞り出すような声に、サニアは何も答えなかった。
ただ、そっと俺の背中に寄り添い、その温もりを伝えてくれる。
勇者になれなかった俺が、この世界という巨大な不条理を相手に、たった一人で計算に明け暮れているのではない。




