表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者になれなかった俺、配属先の「雑務課」で世界最強の組織を作ってしまう  作者: 限界まで足掻いた人生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/86

第24話:生きている地形

最前線に位置する嘆きの谷。そこは、俺たちがこれまでに見てきたどの戦場とも異なっていた。

観測用の魔導眼鏡を覗き込んでいたサニアが、顔を青ざめて声を震わせる。


「……信じられない。地面が、動いているわ」


眼鏡を借りて俺が見たのは、ただの土や岩ではなかった。

谷の斜面が生き物の腹部のように緩やかに脈動し、岩肌には血管のような淡い光が網の目のように走っている。

魔力の奔流が大地そのものを肉体へと変え、谷全体が一つの巨大な生命体として機能していた。


これまでは、魔物はあの穴から這い出してくるものだと思っていた。

だが現実はさらに残酷だった。

脈動に合わせて地表が盛り上がり、そこから泥を被った赤子のように新たな魔物が産み落とされる。

地形そのものが魔物の母体であり、生成装置そのものだったのだ。


「隊長! 攻撃が効きません! 足場が勝手に動き、狙いが逸らされる!」


レオンの悲痛な叫びが届く。

騎士たちがどれだけ鋭い剣を振るい、勇者がどれほど強大な光を放っても、この大地はそれを養分として飲み込み、即座に次の敵へと変換してしまう。

ここでは、戦えば戦うほどに大地を活性化させ、敵の増殖を助けるだけだった。


俺は手帳を開き、目の前の地獄を静かに分析した。

これはもはや、戦闘技術や個人の武勇でどうにかなる盤面ではない。


(……戦術の敗北だ)


どんなに優れた剣技も、斬るたびに増える大地を相手には無力。

どんなに高出力の術式も、吸い取る土壌を相手には無意味。

この地で起きているのは「戦争」ではなく、大地という巨大な胃袋による「消化と再生」の循環だ。


「サニア、レオン、全員に伝えろ。これ以上の交戦は中止だ」


「でも、それでは敵が押し寄せてくるわ!」


「敵を倒そうとするから、この地形は反応する。俺たちがすべきなのは、戦うことじゃない。……戦場そのものを『管理』し、眠らせることだ」


俺の頭の中で、新しい設計図が組み上がっていく。

土壌の魔力伝導を遮断し、大地の脈動を強制的に静めるための大規模な結界。

物理的な破壊ではなく、環境そのものを「沈黙」させるための広域管理。

それは、勇者のような一撃必殺の快感とは無縁の、退屈で、けれど最も確実な封印術だった。


「戦争を止めるには、剣を振るう腕だけじゃ足りない。この世界の理そのものを、俺たちの手で書き換えるしかないんだ」


俺の決意を込めた言葉に、サニアが深く頷き、レオンが武器を収める。

勇者になれなかった男が辿り着いた、戦術を超えた先の答え。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ