第18話:回復薬の原料
物流の最適化が一段落した俺が次に着手したのは、薬品のロット管理だった。
同じ名前の回復薬でも、製造時期や場所によって効き目にムラがある。戦場での「計算違い」を防ぐため、俺は成分の厳密な分析を始めた。
「……ねえ、何をしているの? ポーションなんて、薬草を魔力で煮出せば完成でしょ?」
サニアが不思議そうに覗き込んでくる。この世界の常識では、ポーションは「魔法的な奇跡の産物」だ。
だが、前世で化学の基礎をかじった俺の目には、その成分比率はあまりに不自然だった。
俺は試薬を使い、ポーションの抽出液を分離していく。
沈殿物を取り出し、高倍率の拡大鏡(魔導具を改造したもの)で観察する。
薬草の繊維なら、もっと規則的な細胞壁が見えるはずだ。だが、そこにあったのは。
「……何だ、これ。植物じゃない。生体組織だ」
さらに分析を進めると、戦慄の事実が浮かび上がった。
ポーションの緑色は、ただの着色料に過ぎない。
主成分は薬草ではなく、魔力を極限まで抽出された後の人型生物の細胞片。
それも、組織の形状からして、人間や亜人のものと酷似している。
「サニアさん、これまでに処理してきた『身元不明の戦死者』や『罪人』の記録を見せてくれ」
「え? 急にどうしたの? 遺体は教会の地下で聖印を刻んで埋葬されるはずだけど……」
俺はサニアが持ってきた埋葬記録と、薬品ギルドへの「特殊肥料」の払い出し記録を突き合わせた。
数字は、恐ろしいほど正確に一致した。
この国では、戦死者の遺体は「尊い犠牲」として弔われるのではない。
魔力を効率的に回収するための資源として再利用されていたのだ。
回復薬の正体は、かつて仲間だった者たちの成れの果て。
兵士たちは仲間の「命」を飲み干すことで、また次の戦場へと向かわされていた。
「……効率化の極致だな。これこそが、この国の兵站が破綻しなかった本当の理由か」
俺は吐き気を堪えながら、目の前の緑色の液体を見つめた。
組織を強く、正しくあろうと整えてきたが、その土台そのものが狂気で塗り固められていた。
管理者が真実を知った時、それはもはや「事務」の範疇を超える。
俺はロット番号を記す筆を折り、暗い倉庫の奥で決意を固めた。
この腐った循環を断ち切る。




