第16話:返品されてきた勇者装備
後方支援統括本部へと格上げされた俺たちの元に、特別な「返品物」が運び込まれた。
それは魔王軍の最前線で戦う、選ばれし勇者パーティーが使用していた最高級の装備一式だ。
「……何よ、これ。不気味すぎるわ」
サニアが顔を顰めて、検品作業の手を止めた。
通常、戦場から戻る装備は、魔物の牙による損壊や、魔法による焼失が相場だ。
だが、目の前にある聖騎士の鎧は、外側こそ鏡のように磨かれ、傷一つない。
それなのに、内側を確認した瞬間に俺たちは言葉を失った。
内側の胸当て部分には、狂ったような勢いで刻まれた「爪痕」が無数に残っていた。
外から攻撃されたのではない。
中にいる人間が、苦悶の果てに自分の胸を掻きむしったような、生々しい剥離の跡だ。
「……それだけじゃないわ。こっちの小手を見て」
サニアが指差した部分には、赤黒い染みがこびりついていた。
血痕は外側ではなく、鎧の継ぎ目、つまり「内側」から噴き出したように広がっている。
まるで、中の人間が内側から爆発したかのような圧力。
さらに異常なのは、魔力測定の結果だった。
「修理不能」として返品されたにもかかわらず、装備に宿る魔力値は上限を振り切っている。
通常、激戦を経れば魔力は枯渇し、輝きを失うはずだ。
「魔力は満タン、外傷はゼロ。なのに、中身は血まみれで爪痕だらけか」
俺は手袋をはめ、歪んだ内壁を指でなぞった。
周囲の文官たちは「呪いだ」「魔王の精神攻撃だ」と騒いでいるが、俺の目にはもっと別の、構造的な欠陥が見えていた。
「これ、戦闘で壊れたんじゃない。……中身が壊れたんだ」
勇者という存在は、強力な加護によって肉体を強化し、常人には耐えられない出力の魔法を放つ。
だが、その力を受け止める「器」としての人間には限界がある。
この装備は、勇者の力を限界以上に引き出し続けた結果、中の人間を内側から焼き切り、精神を崩壊させたのだ。
現場の指揮官たちは、勇者を「最強の兵器」としてしか見ていない。
だから、燃料を注ぎ込むように加護を与え、限界を超えても戦わせ続ける。
その歪みが、この「返品物」という形になって現れた。
「……勇者パーティーの稼働率が最近落ちているのは、敵が強いからじゃない。組織が彼らを『使い捨ての部品』として運用しているからだ」
俺は検品書に、これまでの定型文にはない「真の故障理由」を書き加えた。
故障原因:過剰負荷による内部崩壊。
改善案:勇者の稼働時間制限、およびメンタルケアを含む「人間としての運用」への転換。
武力だけで世界を救おうとした勇者たちの成れの果て。




