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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

佐藤と佐藤くん

掲載日:2026/02/10

***BL***僕(佐藤)の机に手紙が入っていた。「佐藤くんへ」。席替えの後だから間違えたんだな。ハッピーエンドです。



 机に小さな封筒の手紙が入っていたけど、佐藤違いだと思う。間違ったんだな。



 とても綺麗な字で「佐藤くんへ」って書いてあった。



「佐藤くん、あの、、、ちょっと話しがあるんだけど」



そう言って放課後二人きりになってから、例の手紙を佐藤くんに渡した。

「僕の机に間違って入ってたんだ」

「間違って?」

「ほら、席替えの前、僕の席って佐藤くんの席だったでしょ?だからきっと、佐藤くん宛なのに間違えて僕の机に入れたんだと思う」

佐藤くんは神妙な顔をしながら、手紙を受け取った。

「佐藤、、、」

「勘違いして開けなくて良かったよ」

と言うと、佐藤くんは一つ溜息をいて

「ありがとう」

と笑った。



**********



 それは、俺が佐藤に出した手紙だった。

 佐藤が、俺の目の前に手紙を出した時は、恥ずかしくて死にそうになったけど、表情は怒っている感じも軽蔑してる感じも無かったから、良い返事を貰えると思ったのに、、、。自分が出した手紙が自分に戻って来るとは、、、。



*****



 俺が帰ろうとしたら、佐藤と目が合った。

 佐藤は、テテテと走り寄ると

「この間の手紙読んだ?」

コソッと聞いて来た。

 この顔が可愛いんだよな。クリっとした大きな瞳。サラッサラの真っ黒い髪と真っ黒い瞳が印象的で、うちのハムスターを思い出す。

 何と無く一緒に帰る雰囲気になり、二人で教室を出た。

「手紙の子と付き合うの?」

めっちゃ聞いて来るなぁ。

「付き合わないよ。好きな子がいるんだ」

「そうなんだ!この高校?」

「うん、同じクラス」

「え!同じクラス?!」

「佐藤は好きな人いるの?」

「僕はまだ、そう言うの無いんだ」

「初恋がまだって事?」

「うん。恋愛ってよく分からなくて。佐藤くんはどうしてその子の事好きだってわかったの?」

下駄箱で靴を履き替える。佐藤がしゃがみ込んで靴紐を結び直す。

「そう言われると、、、何となく?」

「何となくかぁ、、、」

「佐藤くん」

「「 はいっ! 」」

「あ、、、。すまん、背の高い方の佐藤くん、、、」

俺はつい、佐藤の顔を見てしまった。ちょっと唇を尖らせてイジケている。

「待ってて、一緒に帰ろう」

俺は呼ばれた先生と少し話しをして、佐藤の元に戻った。

「あのさ、佐藤くんの事、あらたくんって呼んでも良い?」

「勿論、佐藤くんの名前教えて?」

「一つの葵で、いつき。僕の事も一葵いつきって呼んでよ!」

俺は何だか、一葵いつきの特別になれたみたいで嬉しかった。



*****



 佐藤は、初めて会った時から何と無く目を引いた。

 まさか同じクラスだとは思わなかったし、座席まで前後で嬉しかった。

 でも、俺は身長がクラスで一番高く、佐藤は男子の中で一番低かった。俺の所為で前が見えないんじゃ無いかと思って、背中を丸めて、気持ち小さくなっていた。

 後ろの席から、シャープペンでツンツンと突かれ、後ろを向くと

「そんなに小さくならなくても平気だから、普通にして」

と言ってくれた。

「ごめん、ありがとう」

と言うと、にっこり笑う。

 可愛いな、、、。

 素直な気持ちだった。

 俺は別に男しか好きにならないって訳じゃ無い。初恋は女の子だったし、、、。

 でも、佐藤の事は何だか気になって、だんだん好きだなって思う様になった。


 ただ、佐藤とはそんなに仲良くなれなかった。何だか、いつもタイミングが合わなくて、、、。


 新しい学校、新しいクラス。俺は前から二番目の席で、佐藤は前から三番目の席。一番前の近藤がいつも後ろを振り向いて話し掛けてくれたから、気が付いたら近藤と仲良くなっていた。佐藤は佐藤で、後ろの席の惣田と仲良くなっている。



*****



 新しいクラスにも慣れ、梅雨が始まる頃。曇り空の教室は少し薄暗かった。



 授業中、こっそり佐藤を盗み見るのはよくある事で、彼は国語の授業でウトウト居眠りをしていた。


 国語担当の先生は、いつも小さめの声でブツブツ喋るから、午後イチの授業はかなり辛い。

 案の定、佐藤も頭をコクリコクリと振りながら、眠たい目を擦っていた。

 あー、これは寝ちゃうな、、、。と思っていると、やっぱり佐藤の動きは止まり1〜2分寝ると、パッと目を覚ます。

 そして、しばらくするとまたウトウトし出すんだ。

 そんな佐藤を見るのが楽しみで、俺はこの時間居眠りをしないでいられる。



 音楽、美術、書道は選択科目。俺は美術になった。絵は自信が無いけど、何かを作るのはまぁまぁ楽しいしいと思う。

 選択の美術は、佐藤も一緒。最初の授業はスケッチブックに自分の手を模写した。

 先生が佐藤の後ろに立ち

「上手いね。絵を描くの好きかな?」

と話し掛けていた。

 俺は佐藤の絵が見たくて、次の美術の時間、斜め後ろに座り佐藤の絵を見た。

 俺の作品とは全く違う、本物の手がそこにあった。



*****



「あ、、、」

佐藤の声がした。

「あぁ〜、、、」

鞄の中を覗きながら、変な声を出していた。

 俺は近藤と食堂にラーメンを食べに行く。

 帰りに自販機でおやつのパンを買い教室に戻ると佐藤は机に伏せって寝ていた。

 珍しいなと思いながら、さっきの彼の様子を思い出した。

「佐藤?お昼食べたの?」

と声を掛けると、ムクリと起き上がり

「お弁当忘れた、、、」

と悲しそうに言う。

「何か食べたの?」

「財布の中、ほぼ空っぽだった、、、」

「食べる?」

パンを差し出すと遠慮された。

「今日、体育あるから食べな」

「ごめん、、、」

俺はつい、佐藤の頭を撫でてしまった。



 特別な事があった訳じゃ無い。

 ただ、毎日佐藤が気になって、見ていたんだ。


 手紙を書いたのは、SNSで気持ちを伝えるのが嫌だったから。

 そんなに沢山話しをする仲でも無い。クラスのSNSがあるけど、個人的にやりとりした事は無い。


 手紙で告白しようとして、何度も何度も書き直した。納得の行く文章が書けずに、結局


「好きです。放課後、ゆっくり話しがしたいです」


と短い文章になった。



 佐藤は手紙の封を開けていない。だから、俺の気持ちを知らない。最近は二人でいる時間が多くなったから、告白はしなくて良いかと考えている。



**********



 出席番号が一つ前の佐藤くん。背が高くてカッコ良い。初めて会った時、彼は僕の前の席で背中を丸めて座ってた。足が長いのか机の下に収まらず、ちょっと横に出していた。

 僕は彼が窮屈そうに見えて、シャープペンでツンツンした。勿論頭の方で、、、。

 佐藤くんは気付いて振り向いてくれた。ちゃんと顔を見たら、モデルみたいにカッコ良い。

「そんなに小さくならなくても平気だから、普通にして」

「ごめん、ありがとう」

と言う彼は、良い人そうに見えて友達になりたかった。

 でも、一つ前の席の子と仲が良いらしく、僕は中々話し掛けられ無かった。



 夏前には、何となくグループが出来始め、佐藤くんは近藤くんといつも一緒にいた。近藤くんも背が高くてカッコ良い、二人は見栄えも良くて人気者だった。

 僕はいつもこっそり佐藤くんを見る。



 教室の窓辺で、佐藤くんがブリックパックのジュースを両手に持って近藤くんを待っていた。窓枠に寄り掛かり、ただ立ってるだけなのに、絵になるな、、、と思いながらお弁当を食べた。



 体育の授業でハードル走をやった時、近藤くんと佐藤くんは余裕で走り抜けた。リズム感良くハードルを超えて行く姿は、遠くで見ていた女子も立ち止まる程カッコ良い。

 その後に走る僕は、何だか滑稽でとても恥ずかしかった。



*****



 僕がお弁当を忘れた日、佐藤くんは僕にパンをくれた。

 佐藤くんのおやつを奪う訳に行かず、断ったら

「今日、体育あるから食べな」

と言って、机に置いた。優しいな、と思ったら頭をそっと撫でられた。

 撫でられた時、何だか嬉しい様な恥ずかしい様な、不思議な気持ちになったんだ。



 佐藤くんはいつも近藤くんと一緒にいる。

 僕は近藤くんが羨ましい。



*****



 佐藤くん宛の手紙が、間違って僕の机の中に入っていた日。

 僕は宛名の

「佐藤くんへ」

と言う、綺麗な文字に心を奪われた。

 一文字一文字丁寧に書かれていて、文字の大きさ、バランス、止め、跳ね、祓い、とても綺麗だった。

 あの手紙を書いた人は、きっと佐藤くんの事、大事に大事に思って書いたんだな。

 僕は誰が書いたのか知りたかった。

「この間の手紙読んだ?」

って小さな声で聞いたけど、結局誰からだったのか教えて貰えなかった。

 でも、確かにそうだよね。佐藤くんは同じクラスに好きな子がいるって言っていたから、手紙の彼女は佐藤くんに振られちゃうんだもん。

 名前は教えられないよね。



**********


 

 最近、一葵いつきといる時間が長くなった。

 近藤と喧嘩した訳でも無い。

 近藤は、高校でも部活に入ったから、この頃部活の仲間と行動している。

 気が付いたら、休み時間も移動教室も一葵いつきと一緒だった。

 俺達は仲が良かった。

 


**********



 ん?んんん?

「新くんって、字が綺麗だね、、、」

提出物の新くんの名前を見て、あの手紙を思い出した。

「あの手紙のさ、、、」

新くんが、バッ!とプリントの名前を隠しながら顔を赤くした。

「新くん?」


ゴンッ!


っと凄い音を立てて、新くんは机に頭を打ち付けた。

「だ、大丈夫?」

新くんの耳もうなじも真っ赤だった。

「何で?、、、何で今なんだ、、、」

「え?」

「ごめん、忘れて、、、」

「忘れてって何?」

「、、、」

はぁ、、、と新くんが息を漏らした。

 タイミング悪くチャイムが鳴り、僕は自分の席に戻った。



*****



 、、、新くんが可愛かった、、、。

 えー、、、でも、何だったんだろう、あの反応。

 新くんの字、初めて見たけど綺麗な字だったな。あの手紙の字みたいに丁寧に書くんだな。

 それに比べて僕の字は、小さくて曲がっていて、弱々しい字だ、、、。



*****



 学校のイベントで球技大会がある。

 種目は、バレーボール、バスケットボール、ドッジボール。

 僕は、身長も高く無いし、小学校の頃楽しかったドッジボールにした。新くんは近藤くんに誘われてバスケットボール。

 ドッジボールだけは男女混合で、バレーボールとバスケットボールは男女別々でチームを組む。


 

 僕達のドッジボールは校庭で試合だった。

 僕は、逃げるの専門で絶対手を出さない事にしている。

 極力動かないで良い様に、僕のお気に入りの場所に立ち、動く時も大きく動かない。

 一所懸命走ったりしないから、相手チームも僕の存在を忘れている。

 早く試合が終わる様に、外野から戻るルールは削られ、内野が0人になったら負け。

 僕は、最後の一人になってしまった。

 渋々、真ん中に移動するけど、もっと早く当たれば良かったと後悔している。

 何だかみんなに注目されていて恥ずかしいんだ。

 チームの皆んなからもボールには触るなと言われていたから、兎に角逃げ回った。相手チームが取れなかったボールのおこぼれを拾って、外野にパスする事なら出来るけど、逃げるだけでも体力的にキツいんだから、、、。


一葵いつきーっ!頑張れーっ!」


 新くんの大きな声に反応してしまい、ボールを見逃した。相手チームのパスが回って、僕は背中に思いっきりボールを当てられた。


 最後のボールは、めちゃくちゃ早くて重いボールだった。僕は当たった悔しさより、痛みの方が大きくて、最後の挨拶をすると早々に日陰に座りに行った。



一葵いつき、ごめん、、、」

新くんだった。

「俺が声掛けたから、負けちゃった、、、」

「そんな事無いよ。僕も疲れていたから、あれ以上は無理だったから」

「背中、大丈夫?」

と言って撫でてくれた。

「大丈夫、大丈夫」

「佐藤!一つ前の試合始まる!」

近藤くんが新くんを呼びに来た。もっとゆっくり話したかったのに、、、。

 近藤くんが新くんの肩を抱き、二人で歩いて行く姿が羨ましかった、、、。



**********



 近藤はニヤニヤしながら

「最近は名前で呼ぶ様になったのか?」

と俺を冷やかした。

「まぁね」

「おれも、一葵いつきって呼んで良い?」

「ダメ」

「良いじゃん」

一葵いつきが良いって言っても、ダメ」

「じゃ、お前の事、あらたって呼ぶのは良い?」

「俺の名前は良いよ」

「じゃ、新って呼ぼうっと」

近藤はずっとニヤニヤしている。気持ち悪い、、、。



**********



「新っ!」

新くんの試合を見に来たら、近藤くんが新くんを名前で呼んでいた。

 気付かなかったな、いつから名前で呼ぶ様になったんだろう、、、。

 男子のバスケットボールは、中々迫力があって面白かった。バスケットボール部に入っている生徒は球技大会でバスケットボールには出られない。勿論バレーボール部も同じだ。

 それなのに、みんなドリブルとか早いし、パスも

上手い。運動神経に恵まれてるんだな。

 近藤くんと新くんは、やっぱり女子から人気で、応援も凄かった。

 近藤くんが

「新っ!」

と叫ぶと、新くんが近藤くんにパスを回す。それだけで、「キャーッ!」と女の子達から歓声が上がる。

 最近、新くんと仲良くしてたけど、僕と新くんは住む世界が違うかも知れないな、、、。



 男子のバスケットボールのチームは、学年1位だった。校内でも5位で、今日は打ち上げに行くらしい。

 ホームルームの後、バスケットボールの試合に出たメンバーで集まってワイワイやっていた。お店を決めるのに盛り上がっている。

 僕は新くんに先に帰ると言いたかったけど、声を掛け辛くて静かに教室を出た。

 後ろから

「新っ!」

って言う、近藤くんの声が聞こえて、イヤだなと思ってしまった、、、。



 バスに乗りながら、自分の心の狭さに嫌気が差し、何もかもが面白くなかった。



**********



 教室を見回したら、一葵いつきはもういなかった。試合に出てばかりで、今日は全然話せなかったから、一緒に帰りたかったのに、、、。

 結局、このままカラオケに行く事になって、みんなで駅まで移動した。



 俺と近藤は裏道を自転車で駅まで行った。何人かはバスで移動だったから、俺と近藤で先にカラオケ屋に行き部屋を取る予定だった。

一葵いつき?」

「あ、新くん」

「佐藤じゃん!」

「近藤くんも。これから打ち上げ?」

「そ、バス組は後から来るから、俺と新で、先に部屋を取っておこうって」

「そっか、楽しんで」

一葵いつきの元気が無い。

一葵いつき、背中大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。僕、他にも用事があるから行くね」

そう言って、一葵いつきは走って行ってしまった。

「え?ちょっ、、、と、、、?」

「あーらら、振られちゃったねぇ」

「縁起でも無い事言うなよ、、、」

近藤はバス組と連絡を取りながら、カラオケ屋に入る。受付に人数を伝えて15分後に予約をいれた。

「最近は佐藤とどうなんだよ」

「普通、、、。進展は無いけど、毎日一緒にいるよ」

「告白しないの?」

「まだ、良いかな」

「油断してると、誰かに取られちゃうよ?」

「そんな事言ってもさ、一葵いつきは初恋もまだらしいんだ、、、。それなのに、男から告白されたらショックが大きいかも知れないだろ?」

「ビビリだなぁ」

「今は、良いんだよ。一葵いつきと仲良くなれて一緒にいられるから」

「そうなの?、、、あっ!来た!」

一葵いつきの話しはそこで終わった。



**********



 球技大会を境に、新くんと近藤くんがまた仲良くなっていた。

 休み時間、新くんと一緒にいたら近藤くんが来て

「新、ジュース買いに行くから付き合って!」

と言って、新くんを連れて行ってしまう。戻って来たのは、休み時間が終わるギリギリで新くんは自分の席に戻って行った。

 休み時間になる度に彼が来る訳では無い。でも、地味に1日一回は僕から新くんを奪うんだ、、、。

 この間はとうとう昼休みの時間を全部盗られてしまった、、、。

 僕は近藤くんが

「新!」

と呼ぶのが嫌いだ。



 でもね、気付いた事があるんだけど、、、休み時間が終わると、席を立つのは僕なんだ。

 新くんから来てくれる事って、あんまり無いな、、、。もしかして、新くんは近藤くんと一緒にいたいのかも、、、。そう思ったら、新くんの席に行ってもいいのかな?って考える様になってしまった。


 昼休みに入るなり、近藤くんは新くんと売店に行くらしく、教室を出て行った。

 僕も新くんが帰る前に急いでお弁当を食べて、教室を出る。

 だってさ、もし、新くんを待っていて、新くんが来てくれなかったら淋しいでしょ?だから、僕は用事を作って教室から出る事にしたんだ。

 まぁ、時間を潰す場所なんて図書室位しか思い付かないからな、、、。ゆっくり階段を上がって図書室に行く。

 入学式の後、一度だけ図書室に入った事がある。

 生徒は受付に二人いるだけで、他には誰もいない。

 本棚をフラフラと見て、何か面白い本は無いかと探してみた。



 中学生の頃、友達に薦められた本を見つけた。あの時は受験があったから、落ち着いたら読もうと思っていた本だった。

 僕は、受付に本を持って行き、初めて利用する事を伝えた。


 

 本を借りるのに時間が掛かり、教室に戻った時にはチャイムが鳴り始めていた。後ろのドアを開けると、新くんと近藤くんが仲良く肩を並べてロッカーに寄り掛かっていた。

 僕は急いで自分の席に戻り、授業の準備をする。



 次の休み時間、僕は借りた本を取り出して読み始めた。

 ハードカバーの本はずっしりしているけど、その重みが何とも言えず気持ち良い。少し厚みのある紙のページを捲る。


 その次の休み時間は、急いでトイレに行った。教室を出るのが目的だった。


 僕は少しずつ新くんから離れて行った。

 

 自分でも、何でそんな事をするのか分からなかった。ただ、「新くんは近藤くんの友達だから、、、」って自分に言い聞かせてる時があるんだ。

 

 休み時間の10分を一人で過ごすのは難しい。本に集中しているフリをしながら、やっぱり新くんの事、気にしているのに気付く。



「新っ!今度の休みにさ!」

近藤くんが僕の横を通りながら、新くんに話し掛けていた。今度の休みに二人で出掛けるのかな、、、。いいな、、、。そう思ったら、涙が出そうになった。

 図書室の本に涙が溢れるのはマズイ。本をしまって、僕は机に伏せって寝る事にした。



**********



 近藤は俺の席に近付くと、小さな声で言った。

「佐藤が泣いてる」

「え?」

一葵いつきをそっと見た。彼は机に伏せって静かに涙を拭いていた。

「保健室連れて行ってやれよ」

「うん」

最近、一葵いつきが俺を避けている様な気がしていた。話し掛けたくても、近藤に邪魔されたり、一葵いつき本人がいなかったりで中々一緒にいられなかった。

 俺は彼の席まで行き

一葵いつき?具合悪いなら保健室行こう」

と声を掛ける。一葵いつきは、涙を拭くのを誤魔化す様に

「大丈夫」

と言った。

一葵いつき、、、保健室、一緒に行くから」

そう言うと、小さく頷き椅子を引いた。 


 保健室は、一階にある。階段を降りている間にチャイムが鳴り、次の授業の先生が下から上がって来た。

「先生、佐藤くんの具合が悪いので保健室に連れて行きます」

と言うと、先生は

「分かりました」

と返事をして、また階段を上がって行った。


 保健室に行くと、プレートに「会議中の為、名簿に記入して下さい」と書いてあった。

 俺は

「失礼しまーす」

と言いながらドアを開けた。

 取り敢えず、一葵いつきを椅子に座らせる。

「近藤が一葵いつきが泣いてるって、、、」

「ありがとう。もう大丈夫、、、。教室戻って、、、」

一葵いつきは名簿に名前を書いた。俺もその下に名前を書く。

「先生来るまで、一緒にいるよ」

「一人で大丈夫だから、、、」

意外と頑固だな、、、。

一葵いつき、何で泣いたの?」

「、、、最近、新くんと一緒にいられない、、、」

「、、、」

「近藤くんが新って呼んでる、、、」

「うん」

「新くんの友達は近藤くんだから、、、。僕じゃ無いんだなって、、、」

「え?待って待って?近藤が友達だと、どうして一葵いつきが友達じゃ無くなるの?」

「一緒にいる時間が減る」

「じゃあ、三人で」

「ヤダ、、、」

「やだって、、、」

「三人でいるなら、一人が良い」

「だから、俺の事避けるの?」

「近藤くんは嫌い」

「どうして?良いヤツだよ?」

「僕から新くんを盗った、、、」

「盗って無いよ?」

「、、、新って呼ぶから嫌い」

「ん?」

「僕は「新くん」って呼ぶのに、近藤くんは「新」って呼ぶから嫌い、、、」

一葵いつきは、ボロボロ泣いた。

「、、、ただそれだけ、、、」

ゆっくり立ち上がって、保健室のベッドに潜り込む。ちゃんと上履きを揃えて。

 モゾモゾと、俺から逃げる様に布団に入った。

「だってさ、アイツが一葵いつきの事、名前で呼ぼうとするから嫌だったんだ」

俺は、ベッドに腰掛けた。

 一葵いつきは布団を頭から掛けている。

 頭のある場所をトントンと叩く。

「近藤が「俺も佐藤の事、一葵いつきって呼ぼうかな」って言うから、ダメって断ったんだ。そうしたら、それなら俺の事「新」って呼んでも良いか?って、、、。俺の名前なら別に何とも無いから、、、それ位ならって返事した」

「僕はイヤだよ、、、。近藤くんが「新」って呼ぶ度に、僕の新くんなのにって思ってた、、、」

「僕の新くん?」

「うん」

「僕の友達の新くん?」

「うん」

「でもさ、友達は何人いても良いよね?」

「うん」

「じゃあさ、近藤が「新」って呼んでも良いよね?一葵いつきも「新」って呼べば良いよ」

「じゃあ、僕も「新」って呼ぶ、、、、、、、、、、でも、近藤くんと一緒だと特別じゃ無い、、、」

俺は布団越しに一葵いつきを撫でながら

「特別が良いの?心の友と書いて心友みたいなヤツ?」

「、、、」

「違うの?」

「、、、違う、、、もっと特別になりたい」


それってもう、俺に恋してるって事じゃ無い?


一葵いつき、渡したいものがあるんだけど、、、。出て来てくれる?」

一葵いつきは身体の向きを変えて、静かに半身を起こした。眠たいフリをして、目を擦る。

 布団の中で泣いていたんだ。


 俺は生徒手帳を取り出す。

 

 生徒手帳には、あの日、一葵いつきから渡された俺の手紙が挟んであった。


一葵いつきは、佐藤違いだって俺に渡したけど、本当は俺が一葵いつきに出したんだ」


 一葵いつきは首を傾げた。


「どうぞ、読んで下さい」


 一葵いつきは、そっと封筒を開ける。

確か、俺の書いた文章は


「好きです」から始まった筈、、、。


一葵いつきは手紙を呼んで、ポトリと涙を流した。

一葵いつき、俺の特別は友達じゃ無いんだけど、、、」

と笑うと、一葵いつきはもっと沢山涙を流した。


 あー!もう可愛い!


 俺が一葵いつきを抱き締めると、彼も俺を抱き締めてくれた。

「今日は一緒に帰れる?」

「うん、、、新と一緒に帰りたい。ずっとずっと一緒にいたい」

「俺、男だけど付き合ってくれる?」

一葵いつきは何度も何度も頷いた。



**********



 チャイムが鳴り、二人で教室に戻ると近藤が

「もう大丈夫か?」

と聞いて来た。

 一葵いつきはやっぱり近藤が苦手らしく、俺のシャツを小さく握り、後ろに隠れた。

「ん?距離が近いね?進展あったの?」

ニヤっと笑うと、一葵いつきは不思議そうな顔をして、俺を見上げる。

 俺は一葵いつきの顔を見ながら

「近藤は、俺が一葵いつきの事好きだって知ってるんだ、色々相談してた」

一葵いつきは、シャツを握っていた手に力を込めて俯いた。そっと頭を俺に押し当て

「そうだったんだ、、、」

と聞こえそうな声で言う。

「で、二人は付き合う事になったの?」

更に一葵いつきは俺の後ろに隠れる。

「うん」

「保健室でキス位した?」


っ!


 俺は真っ赤になって首を振る。

「なんだ、折角二人きりになったのに、勿体無い」

「近藤っ!」

「ははっ!佐藤が慌てるの、珍しいな!」

俺のシャツを握る一葵いつきの手から、力が抜けた。

 そっと後ろから顔を出す。

「もう、あらたって呼ばないよ。佐藤の彼氏だからね!」

近藤は一葵いつきに向かって微笑んだ。



**********



 三人でファミリーレストランに入った。一葵いつきは俺の隣。

「だってさ、佐藤は佐藤の事好き過ぎて、毎日佐藤の事「可愛い可愛い」って言うクセに、今のままで良いなんて言うし。佐藤は佐藤で俺が佐藤をあらたって呼ぶとヤキモチ妬くし、早く付き合えば良いのにって、イライラしてたんだよね。本当、早く付き合って欲しかった。それよりさ、佐藤佐藤って面倒だな。あっ君といっ君で良いか、良い?」

俺は一葵いつきの顔を見た、一葵いつきはニコッと笑って

「新が良いなら良いよ」

と言う。



 テーブルの下で繋いだ手に、ちょっと力を込めて、少し赤くなりながら、、、。



 同じ苗字だったら、、、なんて考えてみました。

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