第4話 過去への扉
かんなにはすごく悪いと思ってる。
いつもなら、何でも言える。
でも、今回のことは絶対に言えない。
僕は昔から一緒にいた。
だからわかってしまう。
かんなの僕に対する気持ち。
だからなおさら言えない。
なんせ彼女は……アリスは僕の初恋で、それは今も続いているのだから……
彼女と出会ったのは今から7年前、僕が9歳の時だった。
出会い方はいたって普通。
町外れの本屋だった。
『彼女』を見た途端、何かに惹き付けられ、
一目で恋に落ちた。
「僕は『彼女』を買ったのだ。」
『彼女』は実に綺麗で可愛らしさも持っており、『本』とは思えないほど人間らしさがでていた。
毎日『彼女』を見ながら思う。
これが恋というものだと……
そして気づいてしまった。
いつも一緒にいる少女も僕に対して同じ感情を持っていることに。
でも僕は気づかないふりをした。
この気持ちを言ってしまったら少女を傷つけてしまう。
だから、絶対言わない。
ある日、喋らない、動かない、しかし人間味のある『彼女』が僕に突然話しかけてきた。
「いつも、ありがとう。俊也」
僕の頬に一筋の涙が流れた。
一生、喋ってくれない。
一生、片思いなのだと思っていた。
そんな彼女が僕に対して笑ってくれた。
「こっちこそ、ありがとう」
その日から僕の日常は変わった。
夜、寝れば彼女に会える。
一緒に遊んだ。
一緒にたくさん喋った。
一緒に『あべこべな世界』を堪能した。
一緒に夜空いっぱいの星を見た。
一緒に……一緒にたくさんの時間を過ごした。
毎日が楽しくて、嬉しくて、好きな人と過ごすということはこんなにも素晴らしいことが分かった。
もう、世の中なんてどうでもいいとも思い、一生『あべこべな世界』で生きる覚悟もあった。
その時、事件が起こった。
かんなが誘拐されたのだ。
彼女は無事に戻ってきたのだが、精神的に深い傷を負っていた。
しかもその誘拐を計画したのが彼女の両親だった。
その時、両親はふたりとも浮気をしており、かんなという存在が邪魔だったのだ。
計画は順調だったが、かんなが脱走したことによって、両親は逮捕されたのであった。
その時のことを、かんなは僕に話してくれた。
彼女は無理に笑い、
「ホントに大丈夫だからアンタは心配しなくていいの!」
と言った。
その笑顔はあまりにも苦しそうで、『彼女』のことなど忘れてかんなを抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫だから、僕がついているから」
かんなは僕の服をギュッと握り、震えていた肩を止めた。
「苦しい、苦しいよ。それと同時に悔しい」
「うん」
「ずっと、側にいて」
ずっと彼女は我慢していた。
かんなはいつの間にか泣いていた。
「うん、ずっと側にいる」
そう言ったとき、一瞬『彼女』の顔が浮かんだ。
でも、その時のかんなには僕が必要だったのだ……
次の日からかんなは元のかんなに戻っていた。
昔の笑顔と共に。
それと同時に『彼女』は僕の目の前から姿を消した。
それ以来、僕は『彼女』に会っていない。
このときまでは
だから、今回は絶対にアリスを手放さない。
手放すものか。
実は結構前からこの話は思いついていたんですが、めんどくさくて……
ま、かけました。
今回はすごく場面転換をしすぎたとすこし反省しています。
なんか微妙な終わりかたしてるし。