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冷淡姫の恋心  作者: 玉響なつめ


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12/20

12 冷淡姫は驚愕する

(……おかしいわ)


 アリオスとイリアネが婚約した当初、平民の出自だからと彼のことを知らずに断ったご令嬢たちは〝アリオス・グラーヴィス〟という青年が思っていた以上に素敵な男性であったことから婚約者となったイリアネを妬んだ。


 イリアネ・フォルトゥナという令嬢が社交的で、周囲と打ち解けていたならば妬みよりも祝福の声の方が強かっただろうけれど、そうではなかったことから悪い噂が加速してしまったことは不幸な偶然としか言いようがない。


 それはイリアネ自身がよく知っている。

 その上で、マリアンナの出現で悪い噂がより(・・)加速したことも理解している。


 だが最近はどうだろうか?

 

 マリアンナとアリオスの幼馴染みカップルを引き裂く悪者として〝冷淡姫〟が存在していたあの噂はどこへやら、今度はその悪女役がすっかりマリアンナに入れ替わってしまったではないか。


 幼馴染みの騎士と第二王子を手玉にとって双方を振り回した挙げ句に飽きたら捨てた、そんな悪女としてマリアンナは今や噂の的になってしまったのである。

 ある意味で間違ってもいないので、マリアンナの両親は沈黙を貫いているところだ。


 なにせアリオスが幼馴染みで、貴族社会に馴染めなかった彼女がアリオスを頼り切っていたこと。

 第二王子と一時期は恋仲同然になって婚約を申し込まれていながら、断ったこと。

 そうした事実が面白おかしく噂されている状況で、下手に言い訳をしようものならそれこそ火に燃料をくべるが如く噂は加速するに違いない。


(おかしいわ……)


 そんな中、アリオスとイリアネも距離を取っていることから、ご令嬢たちが我こそはと彼に声をかけようと虎視眈々と狙っているのも先刻承知の上である。

 むしろ堂々と奪う宣言をされることも幾度かあったので、イリアネとしてはどうなっているのかもはや状況を全て把握などできるはずもなかった。


 しかし、それにしては社交界が思ったよりも静かなのだ。

 静かすぎる、と言った方が正しいかもしれない。


 面白おかしく噂している人々の言葉は確かにイリアネやマリアンナの話題が多い。

 けれどそれは同時にそれ以上のことがないとも言えた。

 憶測で飛び交う内容ばかりで、段々と飽きられている雰囲気すらあるのだ。


(婚約の申し込みなんて、結構な話題になるはずなのに……)


 アリオスを奪うと宣言した女性たちの家がグラーヴィス家に申し込みをしたなら、それはそれで話題になりそうなものだ。


 勿論、申し込んだ側が断られた場合は恥ずかしい思いをするので黙っている……ということは大いに考えられるが、人の口に戸は立てられぬと言うのは正しく、どこからともなく話題になるのが社交界という場なのである。


 それなのにそういった話題が一切ないのだ。

 フォルトゥナ家に対して、グラーヴィス家が何かを言ってくることもない。


 そう、何も。

 この婚約に横槍が入ってきているのか、続行するしないも、何も。


(まあ、よそから縁談の申し込みが来ているが気にするな……なんて言ってくる人はいないだろうけど)


 それとなくイリアネが父親に確認しても、特に何もなさそうであるし……では、イリアネに対して挑戦状を叩きつけるようにアリオスにアプローチすると言っていた女性たちはどこに消えてしまったのだろうか。


(ただ私が知らないだけかしら?)


 一人、貴族御用達のカフェでのんびりと茶を楽しむイリアネは、ぼんやりとそんなことを考える。

 

 護衛たちも入ることはできるが、令嬢たちだけで楽しむこともできる程度に安全を重視した店である。

 これまで〝冷淡姫〟として周囲から揶揄されるイリアネは、あまりこうした店を利用することはない。

 しかし今日はアリオスに呼び出されて、足を運んでいた。

 

 当の本人は仕事で遅れると連絡があったため、こうして一人でいるのだけれども。

 

 もう少し早く知らせてくれたら、チラチラとこちらを見る令嬢たちの目に気疲れすることもなかったのにと思ってイリアネはそっと視線をカップに落とした。


(私もそろそろ、貴族として割り切ることを覚えないと……子供みたいな態度を取っている自覚はあるし)


 アリオスに対して、申し訳ないとは思っているのだ。

 自分が気持ちを割り切れないせいで、彼を避けるような真似をし続けていた。

 でもそれだっていつまでもこうしているわけにはいかない。


 はあ……とため息を零すのは今日だけで何度目だろうか。

 恋情に振り回されて、理性的な行動が一切取れていないという自覚がイリアネにはある。


 もっと貴族らしい振る舞いをしなくてはと思うのに、この婚約を継続させるよりもアリオスがより高みにいける道を――義務ではなく、好いた人を見つけられる道を探してあげたいと思うのは、あまりにも身勝手だと理解している。


 貴族の娘として、家のためになるよう行動すべきだ。

 アリオスだってきちんと誠意を示し、初めからこの婚約という契約をきちんと履行しようと努力を重ねているのだ。

 

 ならばイリアネにできることは、彼に謝罪をして態度を改めること。


 イリアネは小さくテーブルの下で拳を握り、決心を新たにしたところで何やら騒がしいことに気がついて視線を向けた。


「ア、アリオス様?」


 そこには女性の手を振り払ったアリオスの姿があって――冷たい眼差しをしたアリオスの姿を知らなかったイリアネは、ただただ驚愕するのだった。

次は12時更新です

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