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最終章 復讐の終わり、世界の始まり

あらすじ

悪魔の少年シーナは、異形の腕をつけられたことにより町から追い出される。

追い出されたシーナは、銀狼族のシルバ、堕天使のマナエルと出会う。

シーナの因縁Dr.リコリス、人を駒のように扱う指導者ヘロードを倒した三人と騎士天使プルミナは、どう動いていくのか…

 戦いが終わった後の広場は、静けさに包まれていた。

 辺りには、瓦礫が転がり、砕けた装甲車両が黒煙を上げていた。戦車は動かなくなり、兵士たちの遺体がそこかしこに横たわる。かつて無表情で命令に従っていた者たちの顔には、それぞれ異なる感情が残されていた。

 恐怖、後悔、安堵、そして、涙。

 天使と、元兵士たち、そしてシルバは無言でその遺体を一つひとつ運んでいく。戦車を押し、崩れた建物の残骸を片付け、怪我人を担いでいく。

 死体の重さが、命の重さのように感じられた。

「…重たいな」

 シルバが呟くと、隣にいた若い兵士が小さく頷いた。

「これが…“使い捨て”だった命の重さかもしれませんね」

 そんな作業風景から少し離れた場所。瓦礫の影の静かな一角に、シーナ、マナエル、プルミナの三人が腰を下ろしていた。疲労の色が顔に浮かびながらも、表情はどこか晴れやかだった。

 シーナは、黒き炎を纏った左腕をじっと見つめていた。それはもはや、かつて忌み嫌われた“異形の腕”ではなく、自分自身が選び、受け入れた力の象徴だった。

「…おれの…復讐は果たされた。人の国に…奪われたもの。否定された自分を…全てぶつけた。けど…それが終わってしまった今、どうするのかな…」

 マナエルがそっと微笑み、隣に座り直す。

「それは、“おしまい”じゃなくて、“つづき”のはじまり、だよ。シーナが何を大切にしたいかで、これからが決まるんだと思う」

「…そうか」

 シーナは静かに頷く。シーナの目には、まだ不安と迷いがあったが、それはこれから歩く道が自分の意志で選べるからこそのものだった。

 プルミナが穏やかに二人を見つめる。

「世界は、ひとつの意志で変わるものではありません。けれど、“意志を持つ者”たちが共に歩めば、変わり始める。それがきっと…平和の本当の姿です」

 そこに、力仕事を終えたシルバが加わる。額に汗を滲ませながら、口元にほんの僅かな笑みを浮かべる。

「おい、話し合いは終わったのか? お前ららしくもねぇ顔してるから、気になった」

「シルバ…」

 マナエルが安心したようにシルバに寄り添う。

「おれたち、これからどうするかって話してたんだ」

 シーナが答える。

「へぇ、いいじゃん。だったらさ、今度は“おれたちの国”ってやつを作るのも、面白そうだろ?」

「国…?」

「ま、人の国っていうより“皆が生きられる場所”って意味でな」

 その言葉を聞いて、プルミナがふっと目を閉じ、深く息を吸った。そして…

「では、皆さんの“望む世界の形”を…指導者のいなくなったこの国で始めましょう。」

 その言葉は、どこまでも穏やかで、力強かった。

 焼けた地に立ち尽くしていた元兵士たちが、天を見上げていた。

 天使たちも、傷だらけの翼を広げながら、うなずいた。

 誰もが、これからを見つめていた。


 数日が経った。

 かつて瓦礫と死体が転がっていた広場の中央に、仮設の演説台が組み上げられていた。粗末ながらも真っ直ぐに立てられたその台の前には、元兵士たち、天使たち、市民となった者たちが静かに集まっている。

 風が吹く。埃と草の匂いを運んでくる初夏の風だ。

 台の上に立つのは…シーナ、シルバ、マナエルの三人。

 それぞれが、過去を背負い、戦い抜き、命の意味を見つけた者たち。

 誰よりも失い、誰よりも願ってきた者たち。

 だからこそ、その言葉には…重みと、未来が宿っていた。

 最初に口を開いたのは、シルバだった。

 シルバは、かつて獣のように怒りを燃やしたその瞳を、人々に向ける。

「…強い者が上に立ち、弱い者が踏みにじられる時代は、終わりだ」

 静かな声だったが、その一言に空気が震えた。

「力の有無、血の違い、見た目、魔力…そんなもので序列を決める世界は、もういらない。これからは…誰もが“同じ場所”から始められる世界を作る。命は、命だ。それ以上でも、それ以下でもない」

 次に、マナエルが一歩前に出た。

 茶色の髪が風に揺れ、澄んだ瞳が民衆を見つめる。

「…意志があるから、私たちは進める。愛せる。信じられる。誰かを守れる」

 マナエルの言葉は優しく、しかし芯が通っていた。

「だから私は、壊すのではなく、“作る”ことで世界を変えていきたい。恐怖ではなく、正しさで人が動ける未来を。私たち自身が、“正しい意志”を作っていきましょう」

 そして…最後に、シーナがゆっくりと前に出る。

 漆黒の肌に、青い瞳。異形であることを隠さず、全てを見せた姿。

 それは“本物の悪魔”だった者の、ひとりの少年としての決意だった。

「…おれは、戦ってきた」

 短く、しかし真っ直ぐに語られる言葉。

「…憎んで、殺して、壊して。けど、それでも手に入らなかったものが、あった」

 静かに空を見上げる。そこには青が広がっていた。

「おれは…ただ、“安心して眠れる場所”がほしかっただけなんだ。もう、誰かが理不尽に傷つく世界は…いらない」

 沈黙が広がる。誰も言葉を発さない。

 だが、それは否定でも拒絶でもなかった。

 風が吹く。陽が差す。天使の羽音が空を流れる。

 そして…誰かが、そっと拍手を送った。

 一人、また一人と拍手が広がっていき、それはやがて大きな音の波となって演説台を包み込んだ。

 怒号ではない。命令ではない。

 自分の意志で始まった、初めての“賛同”の音だった。

 それは確かに、この国が“変わった”証だった。


 …ここから始まる。

 剣も銃もない、新たな形の戦い。

 憎しみの記憶を背負いながら、それでも愛と意志で築いていく、新しい国の物語。

 いつかきっと、この国は語られるだろう。

 かつて「悪魔」と呼ばれた少年、

 「狼」と恐れられた青年、

 天から堕ちた「癒しの羽」、

 そして「正しさを守る騎士たち」が…

 命を見つめ直し、“未来”を選び直した物語として。


キャラクター紹介

名前:騎士天使プルミナ

種族:天使

性別:女

性格:元々は、命令に忠実な騎士そのもののような性格だったが、マナエルたちと戦ったことと、現在の天使たちの有様を見て、考えを改める。今はみんなのお姉さんのような性格で、周りをフォローするようになる。

目標:みんなの思いを現実にしたい


注意:外伝もあります!

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