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五章 命の価値、崩れる秩序

あらすじ

悪魔の少年シーナは、異形の腕をつけられたことにより町から追い出される。

追い出されたシーナは、銀狼族のシルバ、堕天使のマナエルと出会う。

シーナの因縁、Dr.リコリスを倒したが、街中の警報が鳴り響き、シーナたちの侵入がばれてしまった…

 三人は、残された魔導装置と研究データを手当たり次第に破壊していった。

 機械を砕き、魔導炉を焼き尽くし、記録媒体を粉々にする。

 かつてシーナが目覚めたベッドも、マナエルの魔法で跡形もなく吹き飛ばされた。

「…これで…あいつが作ろうとした“何か”は、もう作れない」

 シーナが静かに呟いた。

「よし。じゃあ、あとは脱出だけだな」

 シルバが肩を回し、マナエルも頷いた。

「急ごう。警報はまだ鳴ってる。今なら兵士たちは正門に集まってるはず」

 三人は兵士の姿のまま研究室を出た。

 警報に呼び寄せられた兵士たちに気づかれないよう、通路を選び、慎重に進む。


 やがて、重厚な金属の門が見えてきた。

「…うわ…」

 そこには、数百人の兵士がすでに集結していた。銃を携え、整列するその姿は、まるで儀式のように整っていた。

 中央には、即席のような高台が組まれており、その上に一人の男が立っていた。

 高い帽子を被り、深紅の軍服に身を包んだその男は、顔の上半分を仮面で隠している。

 だが、ただ立っているだけで、その場にいる全員を支配するような威圧感を放っていた。

「…あいつ…間違いない。指導者、へロード…」

 シーナが、低く呟く。

「やばいな。今、正面突破は無理だ」

 シルバが歯噛みする。

「でも…ここ以外に、出入り口なんてないよ…」

 マナエルも不安げに辺りを見回す。

 正門前には、警備兵、上官、魔導兵器が配置され、まさに要塞のようである。

 三人は、静かに息を殺しながら、今後の行動を考える。

 だがその時。

 高台の上、へロードがゆっくりと手を上げた。

 次の瞬間、兵士たちの動きが止まり、ざわつきが静まった。

 場を支配する男の声が、機械的な増幅器によって、広場全体に響き渡る。

「侵入者は、今もこの城内にいる。だが逃げ道はない。…貴様らの中に、異端の気配がある。逃げても無駄だ。すぐに判別されるだろう」

 まるで、誰かを試すような言葉だった。

 三人は、兵士の列の影に身を潜めながら、目配せで相談を始める。

「どうする…あいつ、俺たちが紛れ込んでるって気づいてる」

「早く、別の出口か、隙を探さなきゃ…!」

 すぐ目の前には整然と並んだ兵士たち…だが、その規律の背後には、濃密な殺気が張り詰めていた。

「ここじゃ作戦も立てられない…どっか、影にでも…」

 シルバが言いかけた、その瞬間だった。


「兵士たちよ。整列せよ」

 低く、よく通る声が、へロードの仮面の下から響き渡った。

 次の瞬間、兵士たちがまるで操り人形のように動き始めた。

 一糸乱れぬ動きで列を整え、背筋を伸ばし、武器を構える。

「…!」

 三人はその場に取り残された。整列の流れに加わる間もなく、兵士たちは一斉に前を向いた。

 次第に、視線が三人に集中していく。

 誰もが無言だが、その目に疑念が宿っていた。

「…やばい」

 マナエルが呟いた。

「…バレた」

 シーナが、静かに呟く。

 へロードが、ゆっくりと三人へ視線を向ける。仮面越しでも、その冷徹な眼差しが伝わってくるようだった。

「列に、加われ」

 へロードが、淡々と命じた。

 だが、その声には命令以上の、見下しと断罪の響きがあった。

 誰一人動かない三人を見て、兵士たちがざわめいた。

「つまり、貴様らが異端か…いいだろう。ならば、それなりの処置を取らせてもらう」

 へロードが手を上げると、兵士たちが一斉に銃を構えた。

「…来るぞッ!!」

 シルバが叫び、籠手を装着する。

「ちょっとだけ…乱暴するね」

 マナエルが、魔法陣を展開し、風が渦巻き始める。

「…おれが先陣を切る」

 シーナの左腕には、再び黒き炎が宿っていた。

 へロードの指揮とともに、兵士たちが一斉に突撃してくる。

 兵士たちの刃と弾丸が、三人に降り注ぐ。

 剣兵たちは波のように押し寄せ、銃兵たちは規則正しく火線を構築し、狙いを外さなかった。

「っ、くそ…っ!」

 シルバは拳を振るい、敵をなぎ払うが、数が多すぎる。

「次から次へと…!」

 マナエルは風の魔法を駆使し、敵を吹き飛ばしていたが、目の色が段々と変わっていった。

 その瞳の奥に、怯えと怒りが混ざっていく。

「なんで…っ、どうしてこんなに、人が…!」


 その瞬間、空気が変わった。

 マナエルの背から、黒い羽が現れる。

 柔らかだった光は砕け、冷たい雷と闇が代わりに舞い上がる。

「…ごめんね、皆。本気出す」

 髪がふわりと逆立ち、瞳が金から赤に変わった。

 堕天使モード、発動。

 マナエルが掲げた両手から、雷と闇が融合した球が形成され、爆ぜた。

 轟音と共に、十数人の兵士が吹き飛ぶ。

「マナエル…!」

 シーナとシルバが振り返るも、その場にとどまる余裕はなかった。

 敵はなおも、次々と押し寄せてくる。

 兵士たちは数を武器に、命を捨てるかのように戦いを挑んできた。

 そして…

「撃て」

 へロードの低い声が、戦場を切り裂いた。

 次の瞬間、後方に控えていた砲兵たちが一斉に砲門を開いた。

「…っ、下がって!!」

 マナエルが叫ぶより早く、大地が鳴った。

 轟音と共に火の玉が飛び、着弾。

 激震が地を揺らし、白煙が天を裂く。

 爆風に巻き込まれた兵士たちが、悲鳴をあげる間もなく吹き飛ばされる。

 火の粉が降り注ぎ、煙の中でさらに数名が倒れた。

「自軍ごと…撃った…?」

 シルバが愕然と呟いた。

 炎と瓦礫が積み重なり、戦場はさらに混沌へと沈んでいった。

 へロードの姿は煙の向こうにぼんやりと浮かぶ。

 まるで、命を選別する神のように、冷ややかに三人を見据えていた。

 爆炎が収まりきらぬ中、へロードは再び口を開いた。

「…行け」

 静かに、まるで何でもないことのように。

 その一言で、兵士たちの列の中から数人が前に出る。

 前に出た兵士たちは腰に不自然な装置をつけていた。金属の円筒、赤く点滅する起動灯。

「まさか…」

 マナエルの顔が凍りつく。

「…自爆兵」

 シルバが唸るように言った。

 兵士たちは表情を変えず、ふらつくように歩き出す。

 その目に光はない。ただ、命令に従っているだけの機械のように。

「来るよ…!」

 シーナが叫ぶ。

 三人は身構える。しかし自爆兵は、敵味方の区別なく突進する。

 一人が味方の兵士にぶつかり、爆発…凄まじい火柱が舞い、二人とも跡形もなく吹き飛んだ。

 別の一人は、地面に撃たれ倒れた拍子に起動装置が作動し、自らと周囲を巻き込んで爆散。

 そしてまた一人、三人の方へと駆けてくる。

 その顔には、涙の跡があった。

「止まれッ!」

 シルバが叫びながら駆け寄る。

 しかし、その叫びは届かない。

 間一髪でシーナがその兵士を異形の腕で弾き飛ばし、爆発を防いだ。

 火花が吹き飛び、シルバの頬をかすめる。

「っ…! なんてことを…」

 シルバの目が怒りに染まる。

「何人、何人犠牲にすれば気が済むんだ! こいつら…人間だろうがっ!」

 拳を強く握る音すら、怒りのうねりの中で掻き消えた。

 マナエルも息を呑んで立ち尽くす。

「…命が、道具みたいに…」

「そうだ」

 へロードの声が、再び戦場に響いた。

「彼らは道具だ。意思は必要ない。国家の勝利のために命を使う…当然のことだ」

 その言葉に、シルバの拳が震える。

「…発進しろ」

 へロードの無機質な声が、また戦場に再び響いた。

 直後、地鳴りのような音が響く。

 戦場の奥…煙の向こうから、鉄の巨体がいくつも現れた。

 重厚な砲塔、無骨な履帯。

 それは戦車だった。

「っ…戦車まで…」

 シーナが顔をしかめた。

 だが、それだけではなかった。

 戦車は、まるで味方など存在しないかのように、前進をはじめたのだ。

「やめろッ…! 前に仲間が…!」

 誰かが叫んだ。

 けれど、戦車は止まらない。

 鋼鉄の履帯が兵士を押し潰す。悲鳴が上がり、肉と骨が粉砕される音が混じった。

 そして…

「撃て」

 轟音と共に砲弾が放たれる。

 砲撃は地面を裂き、爆炎が兵士を巻き込んで吹き飛ばした。

 まるで、戦場そのものを焼き払うかのような無慈悲な破壊。

「…っ…」

 シルバが、拳を震わせていた。

 その目に、怒りが燃えていた。

「あいつ…何のために…兵士を…! 何のために戦わせてる…!」

 怒りの奔流は、胸の奥で煮えたぎるように、血を沸騰させる。

(これが…これが、“指導者”だと…!?)


 その瞬間…

 シルバの体から、紅い光が吹き出した。

「…ッ、これは…!」

 マナエルが目を見張る。

 シーナも目を丸くする。

 その赤い光は、猛るように波打ち、狼の咆哮のような気配となって周囲に広がった。

 風がうねり、空気が震える。

「…ッあ、脚が…!」

 近くにいた兵士の一人が、膝をついた。

 体が竦み、動けなくなっている。

 シルバの目が紅に染まっていた。

 鋭く光るその眼光は、まるで野性の王のような威圧感を放っている。

「銀狼族…!」

 マナエルが呟いた。

「本当に…特別な血…!」

 紅いオーラが三人を包み込む。

 途端に、シーナの異形の腕が脈動する。

 マナエルの髪がわずかに逆立ち、魔力が体内で跳ねた。

 力が溢れてくる――

「…不思議」

 シーナが呟く。

「なんか…気が楽になった」

 マナエルも同じように言った。

「…あの冷酷な指導者を、叩き潰す!」

 シルバが吠える。

 三人の戦意は、かつてないほどに高まっていた。

「ひ、ひるむなッ! 殲滅しろ!」

 兵士の叫びも虚しく、動きは鈍い。誰もがその威圧感に、無意識に足を止めてしまう。

 その隙を、マナエルは見逃さなかった。

 マナエルは炎と雷の渦の中から、まっすぐに歩み出ると、戦車の砲撃を飛び越え、敵陣の中心…指導者へロードのもとを見据えた。

「…あなたは、なんでそんなに、命を軽く見られるの?」

 その声は、怒りと悲しみに満ちていた。

 へロードは、台の上から冷ややかにマナエルを見下ろす。

「命など、腐るほどある。死ねば、新しいのを育てればいい。数こそが力だ」

「…!」

 マナエルの目に、涙が浮かんだ。

 へロードは続ける。

「意志は要らん。命令に従うだけの者だけが、この世界を安定させる。平和とは、均された秩序。反抗の芽など、摘むに限る」

「それが…あなたの言う平和なの……?」

 マナエルの手が震えていた。

 雷が、マナエルの体の周囲を跳ねた。

「命はね、一つとして同じものなんてない! 誰かの代わりなんて、いないの! それを、ただ“使い捨て”るなんて…!」

 その叫びと共に、マナエルの手から雷が放たれた。

 へロードの足元に突き刺さり、台を揺らす。

「理想論だな」

 へロードは微動だにせず、片手を上げて合図を出した。

 背後から、次々に銃兵と剣兵が動き出す。

 だがその前に、シーナとシルバが立ちふさがる。

「マナエルは話してるんだ…邪魔しないで…!」

 シーナの異形の黒腕が、迫る兵士を一薙ぎにし、シルバの赤いオーラが再び波を放ち、周囲の兵士たちの足を止めさせた。

 マナエルはなおもへロードに問い続けた。

「命を使い捨てにすることしかできないあなたが、どうして指導者なんかをしてるの?何も生み出せてないじゃない…!」

 へロードの表情は、微動だにしない。

「…生き延びるために、必要なことをしているまでだ。感情や思考は、脆弱な人間には毒だ」

 戦いの最中、空は重く、空気は張りつめ、そして戦場の只中で…「言葉の戦い」が、鋼鉄と炎よりも強く、響いていた。

 どれほど言葉を尽くしても、へロードの目は冷たく曇ったままだった。

「…貴様の理屈など、戦場では何の意味もない。命を慈しむ?愚かだな。命が尊いのではない。使えるかどうかだ」

 マナエルは拳を握りしめた。

 こんなにも真っ直ぐ訴えているのに、言葉は壁のようにはね返されていく。

(このままじゃ、何も届かない…)

 戦場の轟音が再び鳴り始めたそのとき…

 天を裂くような、眩い閃光が降り注いだ。


 それは一筋の白き光。

 大地に射すようにして、戦場の空気を一瞬にして変えた。

「…っ、光?」

 誰かが呟いた瞬間、空から翼が舞い降りた。

 羽ばたきの音は風のように静かで、それでいてすべての音を凌駕する威厳を持っていた。

 白銀の甲冑に身を包み、風のように優美で、光のように強い。

 それは、かつて森の中で対峙した、騎士天使だった。

 その背後には、数十人の天使たちが一糸乱れぬ動きで続いて降り立つ。

 騎士天使たちは、まさに天から遣わされた秩序の化身のようだった。

「…あなたたちは…!」

 マナエルが呆然とする。

 騎士天使の目線は、へロードの方へと向けられていた。

 ゆっくりと、戦場のど真ん中に着地し、静かに口を開く。

「人の指導者、へロード。あなたの統治は、もはや天の摂理から外れている」

 その声は穏やかでありながら、戦場の全てを制圧するような力を持っていた。

 へロードの眉がわずかに動く。

「…天界が、地上の秩序に口出しするとはな。天使も堕ちたものだ」

「それでも、黙ってはいられません。あなたが命を玩ぶ様、それが”正しき支配”とは言えないからです」

 騎士天使の背で、天使たちの羽が揺れる。

 その数と気配に、兵士たちは次第にざわめき、怯えを隠しきれなかった。

 そして、戦場は次の幕を開けようとしていた…

 地に堕ちた悪魔と、命を踏み躙る人の指導者、そして、天より舞い降りた光の使徒。

 光の羽音が静かに戦場を包む中、凛とした声が響いた。

「お久しぶり、マナエル、そしてシーナにシルバも…」

 天使の中で一際輝きを放つ女性…騎士天使プルミナが、優美に歩み出る。

 その瞳には、かつて対峙したときのような鋭さはなく、今は仲間を見るような柔らかさがあった。

「己の判断により、騎士天使プルミナと、その部隊…天使二十七名、ここに参戦します」

 その言葉と同時に、天使たちが一斉に展開する。

 羽ばたきとともに舞い上がった天使たちは、まるで戦場に差す神光のごとく、正確無比に兵士たちの前線を打ち崩していく。

 矢のような魔光、光の槍、風の刃が、兵士たちの列を切り裂いた。

 人間の兵士たちは戸惑い、混乱する。

「な、なんだよ…空から天使が!?」

 プルミナの言葉は、天使の刃よりも鋭く、兵士の心を貫いていた。

「あなたたちは、命を使い捨てる道具ではない。命には意志がある。意志を持ち、選ぶことが、あなたたちの自由です」

 静かで、けれど力のある声。

 その言葉に、一部の兵士が、わずかに動きを止めた。

「…俺たちの命は…本当に、捨て駒なのか…?」

「人の形をしていながら、あいつらに殺されるだけの駒だったのか?」

 その呟きが連鎖し、数名の兵士が銃を捨てた。

 中には、隣の兵士に拳を振るう者も現れる。

「目を覚ませッ! 俺たちは、殺すために生まれたんじゃない!」

 反乱の始まりだった。

 兵士たちの列に混乱が広がり、統制が乱れはじめる。

 高台に立つへロードは、その様子を見てわずかに眉をひそめた。

「…何だ、これは」

 かすかにだが、明らかに…困惑の色がその冷酷な瞳に浮かんでいた。

 計算通りに動くはずの兵士たちが、命令を無視し、互いに刃を向けはじめたのだ。

「たった数十の天使と、数人の反逆者に…この軍が、乱れるだと?」

 その言葉とは裏腹に、声の奥に焦燥がにじむ。

 シーナはその様子をじっと見つめていた。

 かつて自分の存在を否定した「人の国」が、今、内側から揺らいでいる。

 それは、シーナにとって何よりも強烈な「逆襲」の始まりだった。

 プルミナが小さく呟く。

「意志の灯火は、消えません。たとえそれが、どれほど強く抑え込まれていても…」

 天と地が入り乱れる戦場で、物語は次なる決着へと加速していく。

 黒き悪魔と化したシーナが、戦場の前線をなぎ払う。一薙ぎするだけで、異形の腕から放たれる黒炎が兵士たちを包み、焼き尽くしていく。熱ではない、絶望の本質に触れるようなその黒き炎は、防具を貫き、肉体の奥底までをも蝕んだ。

 その隣では、シルバの赤いオーラが広がっていく。銀狼族の血の覚醒…敵を威圧し、味方を鼓舞する力だ。

「くるなッ、あれは…人間じゃない…!」

 シルバが吼えるたびに、兵士たちは怯み、後退した。眼光は獣のように鋭く、かといって暴走はせず、冷静な怒りが芯にあった。

 そして、上空からは天使たちが光の矢を降らせる。

「命令に従え!逃げるなッ!」

 隊長格の兵士が怒鳴っても、逃げ惑う者、銃を投げ捨てる者、命令に背く者が次第に増えていく。

 その混乱の渦の中で、マナエルが叫ぶ。

「見て!これが、あなたたちの“平和”なの!?命を命として扱わず、ただの部品にしてきたから、こんなにも簡単に崩れていくんだよ!」

 その隣に舞い降りたのは、静かに歩く騎士天使プルミナ。

 戦場にありながらも、その足取りには品と慈愛があった。

「兵士諸君。君たちに問います…あなたは本当に、死ぬために生まれてきたのですか?」

 その声は、地鳴りのような爆音にも負けず、確かに届いていた。

「おれたちは…人間だ…兵器じゃない…」

 数名の兵士が銃を下ろし、前線から身を引いた。

「家族がいるんだ、俺には…こんな命令、もう従えるか…!」

 そしてついに、一人の若い兵士が、仲間を守るために、自分を押さえつけていた上官に拳を振るった。

 …反乱の火種が、ついに燃え上がる。

 へロードの目が、明確な怒りを帯びる。

「…くだらん情動で軍が崩れるとはな」

 へロードの表情は冷ややかで、だがその額には汗が浮かんでいる。

「だが、私の意志は変わらん。命は多ければそれでいい。育てるのは容易い。意志も選択もいらん。服従こそが、平和を導く」

 それでもなお、プルミナは問いを重ねる。

「それで、誰が救われたのです? 誰が、“生きる”ことに意味を見出したのです?」

 へロードは一瞬、口を閉じる…だが、すぐに吐き捨てるように言った。

「意味などいらん。秩序と効率、ただそれだけが支配を保つ」

 だがその瞬間、銃声が鳴り響いた。


 場の空気が一変する。

 一人の兵士が、涙をこぼしながら、震える手で銃を構えていた。

 撃ったのはその兵士だった。

「…俺の妹を、訓練中に“役立たず”と見なして、餓死させたのは…お前だ。あんたの言葉に、何の価値がある…」

 へロードの腹部に弾丸がめり込み、赤い血がじわりと衣服を染めていく。

「…ふん、結局、民衆の選択とはこの程度か…」

 へロードはまだ言葉を続けようとした。

「私は…完璧な…理論に従って…世界を…」

 だが、その言葉は終わらなかった。

 銃を構えたまま近づいていた別の兵士が、黙ってへロードに止めを刺した。

 その体が崩れ落ち、ついに、地面を赤く染める。

 軍国セク・メイトの独裁者へロード。ここに、完全に討たれる。

 広場には、静寂が訪れた。

 残されたのは、命の重み、そして意志の選択だった。

 そして…これが終わりではなく、物語の「転機」であることを、それぞれが肌で感じていた。


最終章に続く

キャラクター紹介

名前:指導者ヘロード

種族:人間

性別:男

性格:「命は腐るほどある」「意志は要らん」「服従こそ平和」という思想を掲げ、人の命を駒のように扱う。

目標:全ては、この国が「最強」「絶対」であることを維持するため…

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