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イカ追いクエスト4「はたらき者には福がある」 - 4

【前回までのあらすじ】

本来の姿を取り戻した聖剣を手にしたAZ。

これでイカなる敵とも渡り合える。

いま、AZの最後の戦いが始まろうとしていた。

 懐かしい。

記憶の底に落ちていた記憶。

立ち並ぶビル。

お昼時、無機物でできてるのにどこか活気がある都会の風景。

僕は、僕のふるさとに帰ってきたんだ。

ゲート越しに映る見知った世界は変わりなく、それを見ていたら涙が出てきた。

近づいてきたメイさんは、僕の肩に手を置いきながら言った。

「集中して。時間はあまりとれない。機会はまた必ずくるから」

「うん」

「対象は問題なく選べられそう?」

「大丈夫、いけます」


 実験の前に何を入手するかはすでに話してある。

今回の標的はおもちゃだ。

様々な物質を組み合わせてあり、かつ構造は単純。

そしてある程度僕でも素材や作りがわかるもの。

召喚して、もしどこか欠けたらそれがこの世界にはない物質とわかる。

それを繰り返せば、いずれ欠損することのないものを選んで正常なまま召喚できるようになる。


 僕は対象となるものを見定め、召喚魔法を発動した。

召喚は成功し目的のものが手に入った。

成功だ。

テテツさんは満足そうにうなずいてる。

先輩たちは召喚物の確認と回収に動きだした。

メイさんは珍しいことにやさしく声をかけてくれていた。


 だけど僕は、感動も忘れ一点を見つめていた。

ゲートはまだ開いている。

目に映る景色がどこなのかわかってる。

だって僕が指定したから。

そう、知ってる場所、かつて僕が働いていた職場の近く。

そこに映るものが僕の目をくぎ付けにした。

このタイミングで、この場所に。

本当に奇跡のような偶然があるものだ。


 後輩の田中。

あいつがいる。

我を忘れ、僕は田中に向けて召喚魔法を発動した。

こっちの世界に引きこむために魔力をこめる。

魔法の効果がでるかと思われた瞬間、突然ゲートが閉じてしまった。


 なぜ、なぜ閉じたんだ。

僕は茫然となってゲートをただ見つめていた。

魔法は不発に終わり、僕は悔しさでいっぱいだった。

あと少しだったのに。

あと少しであいつを。


 あいつを、田中をどうするんだ?

そう思って僕は背筋が凍る思いをした。

まだ犯人と決まったわけじゃないんだ。

召喚したらこの世界にない物質が欠損した状態で転送される。

つまり、田中は。

焦ってことで取り返しのつかない結果になったかもしれない。


 落ち着こう。

いったんあいつのことは後でいい。

幸い今回のことでまだあの会社に勤めているだろうということは察しがついた。

でなきゃ昼間からあの辺をうろついたりしない。


 まずは当時のことを知ることからだ。

僕の死は事件になっているかもしれない。

新聞だ。

紙はこの世界にもあるし、倉庫にもあったから召喚できる。

情報取集を目的として召喚しようって所長に打診してみよう。

あの世界の情報が詰まってるんだ、優先度は高いはず。


 そういえば向こうはいつなんだ?自分が死んでからそんなに時間は経ってないようにも見えた。

こっちの世界と同じくらいの時間が経過してるのかな。

ああ、最近は研究所の仕事に没頭してたからここに来た理由を忘れかけてた。

僕のやりたいこと、思い出せ。

そうだ、この調子。

冷静になろう。


 みんなは僕の様子が変だと気づいていた。

だから僕が落ち着くのを待っていたらしく、メイさんが声をかけてきた。

「大丈夫?」

「大丈夫です。懐かしい風景を久しぶりに見たからちょっと興奮してしまったみたいです。大丈夫、今はもう落ち着いています」

「そう、ならいいけど。仕事に支障がないならさっき召喚したものを確認しましょう」


 メイさんは眉根を寄せて僕を見ていた。

懐かしくて興奮してぼーっとしてた、というのは無理があるか。

一度は感傷にひたったけど、問題ないって言った後だし。


 はぁ、まだ動揺してる。

とりあえず気を静めないと。


 僕は召喚したおもちゃ、簡単な仕掛けで動くぬいぐるみを動かして用途を説明した。

用途っていっても子供の気を引くためにちょっと動いて音が出るだけだ。

みんなはこのおもちゃよりその背景、文化とか文明について質問してきた。

自分たちとよく似た世界観に親近感を抱き始めてるようだ。

みんな召喚対象に興味を持ち始めてる。

テテツさんの思惑通りってところかな。

話してるうちに僕もだいぶ落ち着いた。


 仕事は少し長引いた。

家に帰って布団に入ると、自然と頭が今日のことを整理し始める。

今日のことは忘れない。

忘れられない。

今後は召喚実験を利用して情報収集しよう。

そしたら何とかして田中と話せるようにしたい。

召喚できるなら逆にこっちから送ることはできないだろうか。


 転移術、それが召喚術を含む総称だ。

この名称にしたってことはもってくるだけじゃないはず。

どこかの組織が転送に関する研究をしてるかもしれない。

調べなきゃ。

やることがたくさんある。

研究所に馴染んできたせいかちょっと目的に対する想いが薄まっていた。

そう、目的を見失っていた。

だから今回のことはいいきっかけになった。

必ずやってやる。


 それにしても、召喚ゲートが突然閉じたのはびっくりした。

ゲートの閉門、テスト稼働時はあんな感じじゃなかったのに。

なんだろう、誰かが強制的に停止した?でもなんで。

召喚術を田中に使おうとしたように見えたのかな。

けど召喚対象が何かなんて使う本人しかわからないはずだけど。

魔法を使おうとしたのをなんとなく察したのかも。

いや、まさか機材の不具合?長時間稼働してたからかな。

このあたりも確認しておこう。

だんだん眠くなってきた。


 確実に進めていかないと。

メイさんをはじめみんな頭のいい人ばかり。

下手に不信感を持たれたら厄介だ。

このプロジェクトをおろされたら終わりだからね。

ようやくスタート地点、もっと慎重に進めないと。

せっかくここまで来たんだ。

やりきってやる。

必ず。

この異界から、どこまでもあいつを追ってやる。

次回、イカ追いクエスト5

「せすじが凍るその瞬間」 - 1

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