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イカ追いクエスト3「かわいい子には気を付けよう」 - 1

【前回までのあらすじ】

暖かな泉でその身を清めたAZ。

しかし十の触手を宿したイカつく胸を押さえ歩く。

ひきづるように歩くAZはどこへ向かうというのか。

 展示会から数日、僕はずっと過去の出来事について考えていた。

幸い死んだ時の苦しい感覚は記憶になく、あるのはただ自分は殺されたという喪失感のような気持ちが胸を占めていた。


 あの学者にもう一度会うべきだろうか。

展示会場に行けばいるかもしれないし、どこにいる人なのかはわかるかも。

でも、なんで召喚物のことがわかるのか話せばきっと面倒くさいことになる。

あれこれ質問されて下手をすれば僕が研究対象に、なんてことだってあるかも。

いいことはなさそうな気がしてきた。


 だけど、あの学者に協力すれば異界のことを研究できる。

その中で自分の身に起きたことを知る機会を作れるかもしれない。

あの感じだときっと特定の場所に対するこだわりはなさそうだし。

そうだ、僕が知っていることに関連する方が召喚対象の判別がつきやすいとか言えばいいんだ。

かつて勤めてた会社や自宅付近をチェックできるようになるかもしれない。

あぁ、もやもやする。

答えが出ない問題ってほんとストレスだ。


 それからさらに数日後のこと。

学校からの帰り道、遠目に我が家の玄関で誰かが待ってるのが見えた。

あれは、この間の学者と一緒にいた女の子だ。

若いけど知的な見た目のせいか冷たく感じる。

なんか自分じゃ勝てないって距離をとってしまいそうだ。

でもちょっとかわいい。


 展示会でのことで来た、というのはさすがにわかる。

そうなると僕は、協力するか選択を迫られることになってしまう。

どうしようかな、どうすべきかな。

こういう時に相談できる人がいないのはつらい。

例えば父さんならきっとこう言うだろう。

「いいんじゃないか?気にせず行ってくればいいじゃないか」

お気楽な人だ。

はぁ、自分の家に行くのがこんなに億劫になるのはいつ以来だっけ。


「こんにちは。えーっと、僕を待ってたの?」

「そう。先生が勧誘してきないさいって。自分が行くと避けられるから。かわいい女の子が行けばいちころだ、ってさ。それで、どう?協力する気になった?」

「そんな単純じゃないけど、とりあえず話を聞かせてほしいかな」

「そう。興味はあるのね」

「まあね。ちなみに、もし協力するって言ったら僕はモルモットみたいに扱われるのかな、実験動物みたいな」

「モルモット?実験動物はだめか。そう、残念。先生と解剖しようって話してたのに」


 えっと、冗談なんだろうけど笑えないよ。

この人の淡々としたしゃべり方じゃ万一ってことも考えちゃうし。

うーん、なんか不安になってきた。

やっぱり断ろうかな。

「もちろん冗談よ?」

「うん、わかるよ。けど、その、やっぱりやめておこうかな」

「そう。なら仕方ない。先生にはだめだったって言っておく」


 あれ?ずいぶん簡単に引き下がるんだ。

「君はあんまり興味ないの?その先生ってこの間の学者さんでしょ?すごく熱心だったのに」

「私の研究は進めたい。でもあなたの協力はなくていいと思うの。先生のことは恩師として尊敬してるけど、だからって考え方を一緒にする気はないわ」


 どうしよう。

話は聞いてみたいんだけど、なんか断る雰囲気になってきちゃったな。

「私は帰るわ。じゃ。お邪魔しました」

「あ、あの、話はやっぱり聞きたい、です」

向こうがもちかけてきたのに、僕が遠慮しちゃう状況はちょっと納得いかない。

あ、もしかして誘導されてるとか?


 彼女は僕を見て何か考えてる。

これって、最初から僕を連れて行く気がなかったのかな。

だから下手な冗談を言った、とか。

うーん、もし協力したらどなるだろう。

これがチャンスなのか危機なのか判断つけられない。

いや、判断がつく頃には手遅れだよね。


 お互い黙ったままでいたから妙な緊張感が出始めていた。

そこに帰ってきた父さんがなんの配慮もなく均衡を崩した。

「お、おお、なんだ、おまえのカノジョか。で?なんだこの感じ。早々に別れ話か?」


 ほんとデリカシーないなこのおっさん。

そのカノジョは、突然のことで口を半開きにしたまま僕を見てくる。

これは何だ?と言わんばかりだ。

何か手を打たないと、父さんに振り回される。

仕方がない。

「ああ、とりあえず先生の所に行こうよ。相談事は道すがら話すとこいうことで。じゃあ父さん、行ってくるね」

と言って父さんの誤解が解けるよう遠回しに早口で促した。

「そ、そうね。行きましょう」

そう応じながら彼女も歩き出した。

勧誘する気はなかったようだけど、いきなりのことでさすがに思考が止まったとみえる。

2人を見送りながら父さんは言った。

「ん?なんだ学校の先生のとこに行くのか?痴話げんかを相談に?先生にそんなことまで話すのか。まぁ仲良くやれよー」

これでも大切な親だ。


 話しながらと言ったのにすごく恥ずかしくて黙ったままでいた。

沈黙が苦しいから適当に話し始めることにした。

「なんか、ごめん」

「ステキなお父さんね」

皮肉が胸に刺さる。

やっぱり連れて行きたくないのかな。

いっそどう考えてるか聞いてみるか。

でもその通りってはっきり言ってきそう。

そう言われると僕としてはあまり嬉しくない。

なので話題をかえることに、というか本題だ。

「ねえ、協力ってどんなことするの?」

「さあ。先生がどうしたいかまでは聞いてない。けどきっと、まず過去に召喚されたものを見せてわかるものがあるか調べさせると思う。次に召喚対象をあなたが知ってるものにするんじゃないかな。そうすれば分析しやすいもの。だから手当たり次第にもってくると思う。たくさんあるから頑張って」


 だいたい思った通りだ。

それは僕にとって都合がいい話でもある。

よし、それならずっと考えてたことを提案してみようかな。

こういう駆け引きって緊張する。

「きょ、協力ならしてもいいけど、僕にだって条件があるよ」

「あらそう。でも私に言っても意味ないけど。私は先生の助手だから」

「助手なの?さっきの感じだとそんなに意思の疎通が出来てないような」

「あのおしゃべりと話すと時間と気力がそぎ落ちていくのよ。あなただってあのお父さんと話すとそんな感じなんじゃないの」

「それは、その通り、かな」

「まったく。それで?条件、一応聞いてあげる」

「ありがとう。そ、その、僕が協力するにあたって、僕も研究員?でいいのかな、そういう立場にしてほしいです。なんかすごい無理言ってるのはわかってるけど、どうかな」

「つまりうちの研究所に入所したいってことね。ふーん、でもなんで?」


 就活しなくていいし、施設の設備をこっそり使うのに適した立場だから、とは言えない。

「だってただ協力しても僕には何もメリットないじゃん。研究員なら何かしらメリットありそうだし、それに召喚術に興味あるから」

そう答えると彼女は目を細めた。

「召喚術に興味、ね。ああ、そういえばあなた今年で卒業か。就職先にいいし、何かは知らないけど自分に都合のいい環境だと」


 バレバレじゃん、やだね、頭のいい人って。

ていうかなんで卒業のことまでわかるんだ。

反論したかったけど思いつかず、僕は観念した。

「そうです、その通りです。おっしゃるとおりですよ」

今後の関係性を垣間見た気がした。


 彼女は少し考えた後、ちゃんと応えてくれた。

そういえば名前なんていうんだろ?

「先生は間違いなくOKって言うわよ」

「えっ、そうなの?意外」

「はぁ、考えてみなさいよ。先生は何としてもあなたに協力させたいのよ?研究員になってくれるなんてむしろ好都合。だって大半のことは業務命令でやらせられるんだもん」


 それはまさにそうだ。

それってモルモットとかわらないのでは。

自分から頼んじゃった。

頑張って考えてメリット出したつもりだったのに。

研究員はやめた方がいい気がしてきたぞ。

どうしよう。


次回、イカ追いクエスト3

「かわいい子には気を付けよう」 - 2

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