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イカ追いクエスト7「いのちを大事に」 - 4

【前回までのあらすじ】

第3の四天王を打ち負かしたAZ。

そして最後にして最強の四天王が現れる。

勝負の行方はイカに

 先生との開発は無事完了した。

そしたら先生はためらいもなく研究所から姿を消した。


 その後、何度か行方を確認したけど全然見つけられず会うことはなかった。

僕はまた1人になった。

でも、先生のおかげでだいぶ気が晴れたから大丈夫だ。

このまま進む。

なんでか僕の意思はそう固まっていた。

人間の行動原理というものなのか、一度動き出すとためらいがなくなる。


 僕は田中と話すためそのまま居座っていた。

機材の起動時にはここの職員に協力してもらい、召喚術と投影術を使ってついに田中と対面を果たした。

あいつは、もう逃げられないと悟ったかのよう。

なんでこうも覚悟が決まってるんだ?

やっぱり何かあるのか、こいつ。


 投影術は、先生が僕の為に改良してくれた。

僕の手元の端末でお互い話したことが文字として表示されるようになっている。

僕が話したことは、投影座標に相手の世界の言語で表示される。

もちろん、これは向こうの世界の言葉がわかるからこそできるものだ。

こんなことまでしてくれた。

なんだかんだで先生はやさしい。

先生の名に恥じない、尊敬せずにはいられない人だった。


「やあ、久しぶりと言っていいのかわからないけど、その、こんにちは」

「ええ、こんにちは。姿が違いますが、お元気そうで何よりです」

「この状況、受け入れてるの?」

「こういう目には何度もあいましたから」

「ああ、そうかそうだよね。えっと、ごめん」

「いえ。それでご用件は」

随分淡々としてるな。

年も取ってるし、会社の重役でも務めてるのかな。


「僕の死の真相を知りたい」

「死の真相ですか。なるほど、大体だわかりました」

「えっ、わかったの?」

「先輩が亡くなった時のことを知りたいということでしょう?」

「そう、そうなんだけど、理解が早いのは助かるけどなんか」

「当時のことをまとめたものがあります。一度自宅に戻りますのでお待ちください。もしくは私の自宅に来てもらえますか?」

「それならまた改めるよ、長時間この状態を維持することができないんだ」

「そうですか、わかりました。では準備だけはしておきます」

「すみません、助かり、ます。では、お願いします。えーっと、すみません」


 すんなりいきすぎてむしろ戸惑っちゃった。

まとめたものがあるって、まさか何度も追われる内に察しがついてまとめてくれた?

そんな、まさか。

田中ってこんなに優秀だったっけ?


 彼は軽くため息をついてその場を去っていった。

ほっとしたというより疲れたって感じだな。

なんかこう、疎外感というか、もうちょっと懐かしむような話も出来たらよかったんだけど。

と言っても会社のことしか話せないか。

しかもうろ覚え。

まぁいいか、また話すんだし。


 後日、何度か田中家を訪ねたけど、入れ違いになったのか中々会うことが出来なかった。

ようやく会えた頃にはこの施設を出禁になるんじゃないかと冷や冷やし始めた頃だった。

設備の稼働はお金かかるからね、とても。

段々と入館証もらう時の受付嬢の目が冷たくなってきているのだ。

いつも挨拶代わりにすみませんと言って通してもらってる。

メイさんもそうだけど、女性ってこういう視線の向け方が容赦なくえげつない。

いくら知人がいいよと言ってくれても、こういうところで本音が出てきてしまうのだ。

「エイゼットさんのおかげで今の地位があるからここを好きなように使っていいよ」

なんて言っててもだ。

流石に限度ってものがあるわけだ。

ほんと、すみません。

利用し合う関係って、こういう時は気が楽そうでいいね。


 田中はそんな僕の苦労に見合うものを、宣言通り揃えてくれていた。

当時の新聞、どうやって調べたのか僕の治療結果、あとは田中が当時付けていた日記まで。

僕の最後に関わる諸々を用意してくれた。


 召喚術で取得して読んだみた。

そのどれもが、あれは事件ではないことを示唆している。

原因は明確にはなってないけど、僕は突然の心臓発作により急死。

外傷はない。

第一発見者である田中も一応疑われたみたいだけど証拠になるものもなく放免。

あとはこいつの日記。

あてになるものじゃないけど、当時のことが走り書きで記載されてる。

僕を見つけた時にはすでに息はなかったと書いてある。


 そんなはずはない。

だって僕は健康だった。

たしか、そのはずだ。

きっと田中が誤魔化してるに違いない、絶対そうだ。

「おい、こんなはずないよ。僕は殺されたんだ。こんなはずないんだ。お前だ、お前に殺されたんだよ。犯人なんだろ」

「違います。私が見つけた時にはすでに息はありませんでした」

「嘘だ。だって僕の最後の記憶はお前の姿だった。そうだ、あの時のお前、様子がおかしかった。僕が死んでるのを見ても全く慌ててなかったじゃないか」

「それは、記憶違いですよ、先輩。死に際の記憶ですし、何より生まれ変わるという不思議な体験をされています。きっと記憶に混乱が生じているのではないですか」

「お前、今ちょっと焦ってなかったか?やっぱり何か隠してるだろ。答えろ」

「殺人犯として疑われているんです。しかも魔法なんてものを扱う人に。それは焦りますよ」

「誤魔化すなよ」

「誤魔化してはいません。いいですか、先輩。この医療記録は間違いなく本物です。死因は心臓麻痺。他殺ではありません」

「医療記録なんてどうやって手に入れたんだ。普通手に入らないだろ」

「申請すれば閲覧可能です。コピーは違法ですが。先輩の苦悩にお応えしたかったからですよ。私は先輩の要望に、その、応えなければとそう思ったのです」


 まただ。

なんか歯切れの悪い言い方。

嫌な感じがする。

何か隠してるのは間違いない。

でもこのまま問い詰めても何も言いそうにない。

それに、新聞。

これは第三者が書いたもの。

僕のことは少ししか記載されてないけど殺人とはどこにも書いてない。

いや、もしかしたらこの後の展開で違っているかも。

あえてこれだけ見せてるのかもしれない。

都合のいいことをしてるんだ、きっと。

きっと、そうに違いない。

そうでなきゃ、僕は今まで一体なんのために。


「あなたは殺されるようなこと、何もしていないじゃないですか。私だってそんなことする理由がありません。ないんですよ。特別親しいわけではありませんでしたが、会社ではそれなりに付き合いがありました。恩を感じるところもあります。私の知っているあの頃の先輩を殺すなんてこと、絶対にしません」

「じゃあ、なんで急に心臓麻痺なんて、それこそ説明つかないじゃないか。なんで、なんでだよ。なんで僕は死んだんだ」

「その点については当時の担当医に確認しましたが、特定はできなかったと言っています。心労とか、何かあったのかもしれません。ですが警察の調査結果も事件性はないとのことです」

「つまり、仮に殺人だとしても、犯人は捕まってないのか」

「まぁ、そうですね、殺人だとするなら犯人はまだ捕まっていないことになります。ただ繰り返しになりますが、これは」

「もういい」

「すみません」

「いいよ、わかった」

「先輩。他殺ではない、つまり誰かに恨まれて殺されたわけではないという点、あなたにとって救いにはなりませんか?」

「そうだね、なる、かもね」


 もう、どうでもよくなってきた。

田中は真剣顔でまだ何か言ってるけど、内容は頭に入ってこなかった。

僕の返事がないことで察したらしく、あいつはその場から離れていった。

次回、イカ追いクエスト7

「いのちを大事に」 - 5

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