イカ追いクエスト7「いのちを大事に」 - 2
【前回までのあらすじ】
最強のイカを求め旅立つAZ。
四天王の一角に挑むAZをイカくする四天王。
再び折れた聖剣を手に、勝算なき戦いへと赴く。
投影術はほぼ完成しているものの、先生は機材の調整に手間取っているようだった。
難儀してたからか、ちょっと八つ当たりされてしまったこともあった。
まだ少年なのだ、仕方がない。
けどそれも済んで投影術のテストが始まった。
ちなみに実験は干渉術の提唱者である懐かしの友人のもとで行われている。
彼も干渉術の第一人者として成功し、僕とは別の研究所でそれなりの役を務めてる。
僕が協力を頼んだら恩があるから気にせず使ってくれ、とOKしてくれた。
人脈のありがたみを感じる。
僕がしてきたことは無駄じゃなかった。
それが間違ったことだとしても、もしかしたら利用し合うだけの関係だとしても。
「ねえ先生、教えてほしいことがある」
「なに?」
「先生は、先生も僕を利用してるの?」
「投影術開発の為にってこと?どうかな。そうとも言えるし別に利用ってほどでもないかな。ボク1人でもやっていけるし」
たしかに。
この人ならわざわざ回りくどいことしなくてもよさそうだ。
「へぇ。先生も、ってことはそういう人がいるんだ。君、大物なの?この出会いは幸運だったというべきなのかな」
「いや、そんな大したことはないよ。マスコットくらいの扱いだから」
「そっか。それで、もしボクが利用してるとしたらどうするの?」
「聞いてみただけだよ。ただ、そうならもう隠さず言ってほしいなって思っただけ。もう、こういう気持ちになるのはうんざりだ」
ふーん、と言って僕をじっと見たまま先生はそれきり何も言わなかった。
こんな問答に意味がないのはわかってる。
取り繕ったような言葉じゃ鵜呑みにできないし、はっきりそうだって返されてもどうしたらいいかわからない。
先生はなんだか親しみやすくてつい聞いちゃっただけだ。
信用したいのかな、僕は。
そばにいてほしいんだ、だれかに。
僕に味方してくれる人がほしい。
その日、召喚ゲート越しに行った投影実験は異界ではなくこの世界の座標を、というか自分達の目の前を指定して実施された。
先生からこの世界を対象にするやり方を聞いた時にメイさんの言葉が脳裏をちらついたけど、止まる気はなかった。
投影術は光を操作する魔法がベースになってるらしい。
かつての世界で見たホログラムよりも鮮明な映像表現に驚いた。
先生に優しく説明してもらったものの、残念ながらよくわからなかった。
光を利用しているというのはわかったんだけど、それをどうやってどうしてどうなったのかさっぱり。
正しく理解するって難しい。
結局、色々と教えてくれたけどさっぱりなのは変わらなかった。
唯一ちゃんと理解できた仕組みは、光がない場所では使えないということ。
だけど、そもそも光が存在しない世界では調査も出来ないんだから、なら欠点というほどでもなさそうだ。
「エイゼット。さっきの君の質問に対する答えだけど、少なくともボクは何かしらの組織とは無縁だ。だから何かの勢力に加担していないことだけは確かだよ。興味もないしね。実は君のことは前から気になっていた。だから一緒に研究するのが楽しい。それだけだよ」
「そうなんだ、まあ、僕は変に知られてるからね」
「ふふふ、確かにそうだね。変に知られている」
考えてくれてたんだ。
味方っていうほどじゃないけど敵じゃない、それがわかっただけでもほっとした。
この距離感、なんだか先生のことが好きになってきた。
いい奴じゃないか。
「ありがとう」
その一言を返せたことが思いのほか嬉しかった。
投影術は、テストを何度も行い調整を繰り返しつつ完成されていった。
これで干渉術を使わなくて済む。
投影術で僕と文字を表示させることが出来れば、その場で田中に意思を伝えることができる。
あいつが逃げなくなることもなくなるかもしれない。
僕の要件を伝えて、その後は協力してもらって事の経緯を知るだけ。
それで終わりだ。
僕の目的は果たされる。
真相さえ分かればもうそれでいい。
それで終わりにしてメイさんにお詫びをしよう。
そうだ、対抗術の研究に協力を申し出てみようかな。
きっと相手にしてもらえないだろうけど、あきらめず許してもらえるよう頑張ろう。
終わり?
つまり、それって。
これで終わるなら、干渉術の研究なんていらなかったじゃないか。
メイさんと争う必要もなかった。
孤独になんてならなかったかもしれない。
なんで、なんでもっと早くこの術に、先生に出会わなかったんだ。
運命のいたずらってか。
間が悪いったらない。
なんだってこう上手くいかないんだろうかな、人生って。
転生したってのにこのざまだ。
いっそ干渉術が運命に干渉できる術だったらいいのに。
くそっ。
次回、イカ追いクエスト7
「いのちを大事に」 - 3