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イカ追いクエスト7「いのちを大事に」 - 1

【前回までのあらすじ】

過酷な戦いを経て一回り成長したAZ。

そして彼は気づく。

「イカん、目的をすっかり忘れていた」

 メイさんにはああ言ったけど、落ち着いて考えれば僕にだってその危険性は理解できる。

先輩たちも僕を利用してるんだろうか。

調査時に僕を1人にしたのはやっぱり、そうなのかな。

みんないい人だと思ってたのに。

誰も信じられなくなってきた。

いや、そうでもないか。

僕を妨害していた彼女は、全部教えてくれたあの人はむしろ信頼できる、できたんだ。

いまさらか。

孤立する時って案外自分でそう仕向けてるものなのかもね。


 これからどうしよう。

自分の死の真相なんて、どうしても知りたいって程じゃなかったはずなのに。

最初は元の世界が懐かしくて、召喚術に興味が出て、それなら自分のことも知ることが出来るかもしれないって、そんなちょっとした興味本位だった。

なぜか欠けてる記憶を探せるかもだし、就活も困らないし、それで親も安心させられてちょうどよかった。

働き始めてからはここにいたくて、ここに残る理由を作りたかった。

居心地がよくて、毎日楽しくて。


 軽い気持ちで始めたことだったから僕は自分を納得させたかったんだな。

協力する条件を突き付けたし、自分には使命があるって思いたかったのか。

そんなことしなくてもいいのにね、くだらないことをした。


 メイさん言ってたな、前世は今ここにいる僕には関係ないって。

まったくその通り。

彼女が全部話してくれたのは僕に期待してくれてたからだ。

召喚術の危険性と対策を一緒に考えてくれるって。

優しい人だって知ってたのに。


 今ほど自分がみじめに思えたことはない。

ずっと、こんな想いをしたまますごしていくのか。

魔法で過去を変えることが、1つでもいいから出来たらどんなにいいか。

魔法なのに、ほんと不便なことばかりだな。


 僕は研究所をクビになるのかと思ってたけど、そんなこともなくこれまで同様の日常は続いた。

あれ以来メイさんは妨害工作をしなくなった。

タネを明かした今、そんなことをしても意味がないからだ。

そのかわり対抗術の研究に費やす時間を増やしていた。

メイさんらしい。

先輩たちは僕のやりたいようにさせてる。

僕はもう後には引けない。

だから田中を追い続けると決めた。


 最近は仕事に集中できなくて、できれば誰にも会いたくなかった。

以前からだけど、研究所には様々な関係者が出入りしてて、僕に会おうとする人も来る。

どうせ僕を利用するつもりなんだろう。

会いたくなんてない。

1人にしてほしい。


 仕事が手に付かず、気晴らしに敷地内をふらふらしてたら学生っぽい少年を見つけた。

なんでこんなところに?

ふと、報知機の誤作動のことを思い出した僕は少年に詰め寄っていた。

八つ当たりでもしないとやってられない。

「きみ、なんでこんなところにいるんだ?ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ。いたずらするつもりなら警備員を呼ぶよ」


 脅したつもりだったのに、少年は余裕をもってなんだか嬉しそうにニヤリと返してきた。

「こんにちは、お兄さん。ボクはこう見えて学者です。関係者ですよ」

「え、学者?まだ学生にしか見えなかったから、ごめん、なさい」

「いえいいですよ。この業界、よくあることですからね」

たしかに若くして高い地位にいる人はいる。

「失礼しました。あの、どんな研究してるんです?」

「色々だけど、今は投影術の研究が主かな」

「投影術?」

「そ。投影術。召喚ゲートの向こうに自分の姿を投影する術さ。興味出てきた?」


 もちろんだ。

それが出来るなら田中とだって話しやすくなる。

それにこれなら危険性はなさそうだからきっと、否定されないはず。


「声はどうなの、姿だけなの?ホログラムみたいな?」

「うん、今のところは姿だけ」

「あの、ぜひ、その技術を異界調査に使いたいんだけど、どうかな」

「異界の調査に?姿を見せたら異界人に知られちゃうよ。そんなことしちゃいけないんじゃなかったっけ」

「あー、まあそうだけど。いや、じゃあなんでそんな研究してるんだよ」

「そう返されると困るね。ははは。わかった、いいよ。でも1つ条件がある」

「どんな条件?」

「簡単なことさ。ボクのことを先生と呼んでくれたまえ」

なんだこいつ。

まあいいか、それで協力してくれるなら。


 僕は有休をこまめに取りながら先生との共同開発を進めていった。

先生と話してて思ったのは、この人、本物の天才だわ。

メイさんも頭が良すぎるけど彼女の場合は記憶力がすごい、といわれてる。


 先生はたぶん別のタイプだ。

アイデアが湧いて出てくるし、それをどんどん組み立てていく。

実験が楽しくて仕方がないみたいで考えたらすぐ実行。

失敗しても楽しそうに失敗する。

考えてみれば今までの術の開発とか、携わったものってかなりのハイペースで進んでる。

こういう天才がいるからなのかな?

先生は口癖なのかなるほどねとよく口にする。

天才というか、好奇心の塊ってこういう人を指すんだなぁとぼんやり思った。

ただし、この手のタイプは協力者としてはいいけど、先生として教えを乞うには適してないね。

ひらめきすぎてついていけない。

ああ、だから先生って立場にあこがれるのかな。

誰も付いてきてくれないから。

なるほどね、見た目通り子供らしいじゃないか。

まあ、大人な僕はもちろんそんなこと思ってても言わないけどさ。


 天才を相手にするのはちょっと慣れてる。

かんたんなことさ。

争ってもまず負ける。

ニコニコしておくのが吉、だ。

凡人なりの賢さを学べ、とかつてテテツさんから教わったものだ。


 そういえば、昔はあの人のことも先生と呼んだっけ。

随分と時間がたったもんだな。

僕は成長してるのだろうか。

次回、イカ追いクエスト7

「いのちを大事に」 - 2

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