イカ追いクエスト5「せすじが凍るその瞬間」 - 2
【前回までのあらすじ】
新たな旅立ちの時をゆっくり待つAZ。
しかし人生は思うようにはイカないもの。
そんなAZの元に巨大なイカの襲来が告げられた。
こうして干渉術の実験を行いつつ成果をテテツ所長に伝えていたある日、ついに許可がおりたと連絡があった。
ただ、詳細を聞いて素直に喜べなかった。
干渉術導入についての会議でメイさんが強く反対したらしい。
しかもいつになく感情的になったほどだったとか。
でもほかの研究員たちは前向きな姿勢を崩さず、結果メイさんが折れる形で決まったという。
自分としては苦労したかいがあったというべきなんだけど、メイさんがそこまで反対するとは意外で、なんでなのかみんな不思議に思った。
なんだか、気まずい。
導入に関しての会議はその後何度かに分けて行われた。
その最中メイさんと話す機会はあったけど、別段いつもと変わらない様子で安心した。
聞いた感じだと協力してもらえない気がしてた。
でも杞憂ですんだみたいだ、よかった。
ただ、どうして干渉術に興味を持ったのかと改めて聞かれることがあった。
言い訳として召喚物研究所の役に立ちたいって言っておいたけど、別に嘘じゃない。
それ以上の追及もなくわかったと言われただけですんだ。
仕事として割り切ってるのかな。
メイさん、大丈夫かな。
最近何かの研究で忙しいみたいだ。
傍目に見ても疲れがたまってるのがわかるほど。
普段のお礼も兼ねてみんなで何かサプライズでも用意してみようかな。
召喚物研究所で初の干渉術導入実験を行った。
念のため結界魔法で実験場を保護しつつ、対象は生物のいない異界を選んで行われた。
実験で干渉術を行使するのは僕になった。
僕は特別な魔法の才はないけど、好きが高じて基礎的な魔法はおおむね使える。
だから干渉術に必要な操作系の魔法も使える。
しかもここしばらくこの研究に関わってきたから、当然僕が一番の適任者だ。
そうでなくては困るってもんだ。
実験はメイさん管理のもと行われた。
テテツさんは興味なかったらしく来ていない。
導入当初いくつかの問題によって行き詰まりそうにもなったけど、その都度みんなで知恵を出しながら干渉術式を組み上げていった。
術式以外にも大きな課題はある。
それでも術を考案した研究者はみんなの協力に感動していた。
今まで見向きもされなかった自分の考えにみんなが興味を持ってくれてからだ。
しかも完成に向けて積極的に協力してくれる、その姿を見るたびに泣きそうだったと言った。
僕も同じような思いをしてた。
嬉しくて、楽しかった。
それからしばらくしてついに実用的なところまできた。
その頃には干渉術の認知は広まり、学会にも少しずつ認められようになってきた。
実は認知に関してはちょっとした失敗があった。
導入実験中に異界の物体を操作してたら何度か異界人に見られてしまったのだ。
そのせいで僕たちの干渉術は心霊現象など超常現象の類として知られてしまったけど、ちょうどいいカモフラージュになったのでそのままにしようと決まった。
そして干渉術は召喚術の新たな可能性として、かの有名なマジカルマジック誌の表紙も飾った。
最初は僕だけが表紙に載って取材を受けるはずだった。
けど辞退。
絵になるメイさんと考案した研究者に譲った。
顔を知ってもらうのは今後の為になるんだけど、ああいうのに載ると別の取材とか受けることもあって時間が無くなる。
これについてはサブリーダー就任で勉強させてもらったからね。
目立つのも好きじゃなかったし。
メイさんは不思議そうに聞いてきた。
「もともと人脈広げるのに積極的、加えて最近は干渉術に熱中。いい宣伝になるから取材を受けるかと思った。それとも断らなきゃいけない理由でもあるの?実は犯罪者なんです、とか」
言われてちょっとドキッとした。
たしかに人を殺めようとしたことがある。
だからだろうか。
「犯罪者なわけないでしょ」
とつい強く返してしまった。
この術、わかってきたことがある。
改めて色々と問題があることことに気づかされた。
まず干渉対象への力のコントロールが難しいことが挙げられる。
干渉術は1つのゲートに対して1人が術を使う。
召喚と物体操作の2つの術を混ぜたのが干渉術の理論。
実際に使用するにはこの2つの知識とそのコントロールが求められる。
2人組でそれぞれの魔法を担当出来たらもっと楽になるのにと関係者の間で話が出ていた。
干渉術を扱える人がそれなりに増えたことで判明したのは、2人組で術を使うと互いの力が影響し合ってほとんどコントロールきかなくなるということ。
みんなは干渉術式のどこかに問題があるのではと推察して入るものの、まだ原因はわかってない。
そしてやっぱり稼働時のエネルギー確保。
これがどうしてもネックになる。
エネルギー消費が激しいせいで頻繁に使用することが難しい。
予算はみんなの活躍もあって増加傾向にある。
でもまだおいそれと使えるほどじゃない。
ずっとこの課題解決に向けて考えてた。
研究所のみんなで話し合ったり魔法エネルギー工学の専門家にも相談したけど、現状では解決の糸口は見つかってない。
まったく。
魔法っていう根源のわからない謎エネルギーを当たり前のように使ってるくせになんでこんなことになってるんだか。
魔法って不可能を可能にするものじゃないのかよ。
今更だけど科学されないのが魔法だろうに、なんで法則があるんだ。
魔法ってなんなんだ。
もうやってられるか、って憤慨して思わず蹴りつけたバケツは意外と重くて硬く、おかげで冷静さを取り戻した。
空っぽに見えたんだけどなぁ。
次回、イカ追いクエスト5
「せすじが凍るその瞬間」 - 3