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マイナス100の好感度が上昇する話。  作者: ななどり&えれしーぷ
4/5

浅草

 8時半頃、俺は予定の9時より早く集合場所である広場に到着した。

 集合時間よりまだ30分も早いというのに、学年の6割ほどがもう集合していた。

 

「おはよー、笹原(ささはら)。」

 広場に集まる生徒の中から声が聞こえた。山本(やまもと)の声だ。

 生徒の集団から山本を見つけ、合流した。


「おはよう。山本。」

「それにしてもあっついなー。」

「ほんとにね。まだ6月なのにね。」

 

 この行動グループが決まった際、あまり話したことがなかった山本と話す機会が増えた。

 バスケ部の山本は、小桜(こざくら)に困らされる俺をわかってくれる理解者であり、色々話していくうちに呼び捨てで呼び合う仲になっていた。


 集合場所の広場で山本と他愛もない話をしていると、ある声がした。

「おはよ、2人とも。」

 青木(あおき)さんだった。その横には小桜もいた。


 やっぱり山本やほかの生徒もそうだが、私服だった。

 しかし小桜......。ベージュのふんわりとしたブラウスに、シンプルな黒のミニスカートで......。私服、こんな感じなんだ.......。


 思わずじっと見てしまった。


「......なによ。」

「あ、いや、なんでもない。」

 小桜を見ていたことを本人に気づかれて、いつもの鋭い視線を向けられた。


 ……今日、大丈夫かな。

 

 学校で仲の悪い小桜と校外学習で同じ行動グループになり、無事今日という日を楽しむことができるのか、改めて少し不安になった。



「くれぐれも羽目を外しすぎるなよー」

 集合時間になり、生徒は何列かに分かれて整列し、先生の挨拶を聞いていた。


 挨拶が終わり、いよいよグループ別行動が開始となった。


  

「咲が行きたいって言ってた抹茶の和菓子屋さんは10時からだね」

「......まだ9時半だから時間あるな......。」

青木さんと山本はスマホの時間を見ながら、最初に行く場所について考えているようだった。


「私のは後回しで良いからちひろの行きたがってたところ行こうよ!」

「あー、芋パイのお店かな?そこなら確かに9時からだったかも!」

 小桜の案に賛成する青木さん。俺と山本も頷き、俺たちは4人でそのお店へと向かった。



 到着した俺たちは、浅草の名物である芋パイを注文する。

 芋の餡と小倉のつぶあんを2枚のパイ生地で挟んだもの、それが浅草名物の芋パイである。

 店員さんより包装紙に包まれた芋パイを受け取り、お店の外に出て食べながら歩く。


「これ美味いなー!」

「ほんと。美味しいねー。」

 

 サクサクのパイ生地と餡の組み合わせが最高に美味しかった。

 

「美味しかったね~」

「そうだなー。」

 

 そんなことを言いながら、芋パイを食べ終えた俺たちは歩いていた。 


 その後も俺たちは、色々なお店を回った。

 普段あまり行くことのなかった浅草で食べ歩きするのは、なかなかに楽しかった。

 道中でもやはり小桜と揉めたりしながら、でもその度に青木さんと山本に仲裁に入ったりしてもらいつつ、なんだかんだであっという間に時間が過ぎていった。


「あ!!!!!!!」

「なんだどうした!?」


唐突に大声を出す青木さん、それに驚く山本。


「咲の行きたがってた抹茶の和菓子屋さん、完全に忘れてた!」


 青木さんの一言に、俺たちは顔を合わせた。


「確かに、忘れてた!」


 楽しさのあまり目的地のうちの1つを完全に忘れてしまっていた。

 俺はすぐにスマホの時間を見た。


「15時集合で今14時半だから、急げばなんとかいけるかもよ。」


 俺の提案に3人とも賛同し、少し走ってお店へと向かった。幸いなことに距離は近かったため、5分もしないうちに到着した。


 すぐさま並んだ。列は前から順に、別のお客さんが数名、青木さん、山本、俺、小桜だった。


 順調に列は進み、俺の番となった。

 

「抹茶わらび餅を1つ下さい。」

「カップか箱、どちらになさいますか?」

「じゃあ…カップで!」


 このお店の名物は抹茶わらび餅で、レインのグループでも絶対に食べようと話していた。


「お待たせしました。」


 渡された抹茶わらび餅は、抹茶の粉がまぶされた四角いわらび餅が透明なプラカップに何個か入っているものだった。


 俺が注文し受け取る頃には、青木さんと山本はもう食べ終えていた。早くね?時間に余裕はないけれども、それにしても早くね?


 俺も食べようと少し離れようとしたところ、小桜と店員さんの声が聞こえた。


「抹茶わらび餅ください……!」


 小桜は明らかにテンションが上がっているかのような声だった。この抹茶わらび餅を楽しみにしている姿は見てきたから、当然だと思う。

 

 しかし店員さんが口にした一言は、思わぬことであった。


「申し訳ありません。抹茶わらび餅、前のお客様で切れてしまいまして……。これから作るとなると30分以上はかかってしまいます……。」


 まじか。俺が買った分で売り切れたのか......。

 

 ふと俺は小桜の方を見る。


「え......。」


 絶望に満ちた顔だった。

 

 その後、クルっと体の向きを変えた小桜は、ふらふらと青木さんの元へと歩いて行った。


「15時には間に合わないねー。咲、あんなに食べたがってたのに。」

 青木さんは、涙目になっている小桜を慰めていた。


 すると、その隣に座っていた山本が立ち上がり、無言で俺に近づいてきた。


「どうした。」

「これ。」


 山本は指を指した。その指の先は、俺の持っている抹茶わらび餅のカップに向いていた。


「あげろって?」


 俺が聞くと、山本は無言で頷いていた。


「えぇ......。」


 正直、迷っていた。普段からいがみ合っている小桜にそんなことしてあげる必要はあるのか。

 俺は少し考えたが、昨日のレインでのやりとりを思い出した。

 3人で小桜をからかって、小桜が行きたいと言っていたこのお店に反対したときの、文章からも伝わってくる悲しそうな雰囲気、それを思い出した。


 結局あげることにした。

 

 俺は小桜に近づき、声をかけた。


「はい、これ。」




現在の好感度

・小桜→笹原 マイナス100

・笹原→小桜 マイナス99

めっちゃ遅れましたが更新です。お久しぶりです。

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